恋と、嘘と、憂鬱と。


下宿先のカフェ『フレーズ・デ・ボワ』の扉の前にはすでにCLOSEの札がかかっている。

…裏から入った方がいいかな?


と、思案している私を置いて、充希くんは、気にせず扉を開いた。


カラン、カラン。


レトロなベルの音が店内に鳴り響く。


「あ!二人ともお帰り〜今日は、煮込みハンバーグでーす」


ベルの音で私達が帰ってきたことに気づいたのだろう。

奥のキッチンスペースから和音さんがひょこっと顔を出し、優しく声をかけてくれた。


「…ただいま。無駄に遠回りしたからお腹空いた」


リュックをおろし、カウンター席に座ると充希くんはスマホをいじりながら頬杖をつく。


「ちょっと、充希ったら…ゴメンね、季里ちゃん。うちの息子本当に性格ひねくれてて…。ふん、なんだかんだ言いながら季里ちゃんのこと気にしてたくせに」


「は?母さん、適当言うなよ。誰が心配なんか…」


「はいはい、わかったから。とりあえず、季里ちゃんもご飯にしよ?体調は大丈夫??」


反論する充希くんを華麗にスルーした和音さんは私に向かって、そう問いかける。


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