恋と、嘘と、憂鬱と。
「……颯真くんにはまだ会えてないです…」
「…そっか。やっぱり、高校入学の時の連絡も事実じゃなかったのかしらね」
フッと、寂しそうに呟く玲子さんの声にギュッと胸がしめつけられる。
確かに、西宮颯真という人物は、見つけられていないのは事実だ。
けど。
「…ただ、颯真くんなんじゃないかって、私が勝手に思ってる人はいます。本人からは一回否定されてるんですけどね」
「…どういうこと?」
私の言葉に、玲子さんが困惑したように声をもらす。
「同じ名前の人がいるんです。私より1つ上の先輩に……ただ、名字が西宮じゃなくて、久瀬で…」
「…久瀬?颯真の母親の方の名字は確か、蒲田だったから確かに違うけど…」
玲子さんは、しばらく考え込むように口を閉ざし、「…もしかして…」と、何かを思いついたように声をあげた。
そして。
「季里ちゃん、ちょっと思い当たることがあるから今日は電話切るわね!急にかけちゃってごめん!また連絡するから」
慌てたようにそれだけ言い放つと、戸惑う私をよそに電話を切ってしまう。