恋と、嘘と、憂鬱と。
嬉しそうな玲子さんの声が聞こえ、私はいち早く状況を察して、静かになった充希くんの口元からそっと手を離す。
「…季里」
「今日は…お邪魔しちゃうから帰ろう。玲子さんにはまた明日会いに行くから大丈夫…!あ、充希くん、こっちの草むらに裏道があってね。小さい頃はよく使ってたの。ここから行けばこっそり戻れるよ」
心配そうに私を見据える充希くんに私は笑顔でそう言い放った。
もともと、玲子さんと颯真くんにはまた会ってもらいたかったし…!
こうやって、2人が会えたことは良いことなんだから…。
自分にそう言い聞かせ、私は充希くんに手招きをすると、車庫のガレージ裏にある草むらへソッと進んでいく。
「……」
充希くんの何か言いたげな視線に気づいたが、あえて気づかないフリを貫いた。
草むらを少し進むと、小さなあぜ道に出る。その道を歩いていけば旅館にたどり着く。
草むらを抜けた所で、充希くんがようやく口を開いた。
「季里、今日、颯真くんが来ること…」
「…知らなかったよ。玲子さんからも特に連絡なかったからさ〜もう。ビックリしちゃった」