恋と、嘘と、憂鬱と。


私もゆっくり、母が買ってきてくれたケーキを食べる。


そして、私の手には…


「お母さんとお父さん、本当に買ってくれたんだ…」


念願だった自分のスマートフォンが握られていた。


「東京に行くなら、ないと不便よ。私も連絡できないしね。お父さんもちゃんと連絡しろって言ってたわよ」

と、言って先程、台所で食器を洗っている母を手伝っていた際に渡されたのだ。


母なりの、私の頑張りに対するご褒美なのだと思うと嬉しくなる。

中学校に、上がったばっかりの頃にも1度ねだったことがあったが、

「こんな小さな島なんだから、今はいらないわよ」


と、言われ買ってもらえなかったことを思い出し、くすりと笑みを溢した。


その時。


「季里ちゃん、おめでとう。受かっておばさんも安心したよ」


「…玲子さん!」


私に声をかけてきたのは、2軒先に住む西宮玲子さん。

40代前半とのことだが、ゆるく巻いた髪や可愛らしい顔立ちから実年齢よりはるかに若く見られる。

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