藤堂くん、もっとぎゅっと抱きしめて
「ありがとう……」
両手で受け取る。すると藤堂くんは眉を八の字に下げては、
「毎度毎度字汚くてゴメン。保健室の先生、会議で出て行ったからオレと教室に帰ろう。荷物あるだろ」
ベッドから降りやすいように手を伸ばしてくれた。
「ありがとう。藤堂くん部活は?」
「今日はサボ……んんっ、休み!」
誤魔化したつもりだろうが、全然誤魔化せてなければ、何を言おうとしていたかは手に取るようにバレバレだ。
藤堂くんはテニス部で、部活の先輩からも可愛がられているし、同級生とも仲が良い。本当は部活に行きたいだろうに、サボらせている原因を作っているのは完全に私だ。
私が放課後まで保健室で休んでいたりすると、いつも部活を抜けて様子を見に来てくれたりする。その都度、申し訳なさを感じていた。
「藤堂くん、色々してくれるのはありがたいけど、ちゃんと部活に出ないと変な噂立っちゃうよ」
「変な噂? 例えば?」
「た、例えば……藤堂くんが私のこと好きだとか、付き合ってるとか」
「何で部活出ないイコールで東良との噂が立つの?」
「それは、私と一緒にいるところをよく見られてたら勘違いする人もいると思う」
「あーなるほど。まあ言わせとけばいいよ」
言わせとけばいいって。藤堂くんは噂が立っても困らないんだろうか。
……好きな人とかいないのかな。
なんとなく聞く勇気が出なくて黙っていると、藤堂くんは私の前にしゃがんで背中を向けてきた。
「乗って」
優しくしてほしくないのに、藤堂くんがくれる優しさに安心しているのは私自身だ。
また、体を預けてしまって良いんだろうか。