藤堂くん、もっとぎゅっと抱きしめて
せっかく良くしてくれるのに、藤堂くんの優しさを断ることはできない。
困るだろうなと思いながらも、ゆっくりと体を預ける。藤堂くんは私を背中におぶって立ち上がった。
「もう、症状は大丈夫?」
「うん、薬持ってたから。藤堂くんが注いでくれた水で飲んだの」
藤堂くんは嬉しそうに「よかったー」と呟いた。
「帰りは家の人が迎えに来るの?」
私に質問を続ける。
「ううん。登下校は一人でしてるから。あんまり迷惑かけたくないし、本当に必要な時しか連絡しないって言ってるの」
「そっか。でも何かあってからじゃ遅いしさ、東良はもっと周りに頼った方がいいな」
藤堂くんは一人、ウンウンと頷きながら保健室のドアを開け、廊下へと出た。
おぶられること数分、自分達の教室の1年Ç組のドアの前へと着いた。おぶってくれている藤堂くんの代わりに教室のドアを開ける。
するとクラスの女子、沢辺さんが一人だけ教室に残っていた。何かを言いたそうな顔でこちらを見ている。
この視線、中学のころを思い出す。沢辺さんの目はクラスの女子が無視し出した時と同じ目をしている。
――どうしよう、怖い、怖い、怖い。
「東良、降りていいよ」
屈んでくれた藤堂くんには申し訳ないけれど、降りたらまた症状が発症するかもしれない。
そう思うと、不安で怖くて、藤堂くんから体を離すことができないでいた。
なかなか藤堂くんの背中から離れない私を見兼ねてか、沢辺さんが「東良さん、大丈夫ー?」と心配する素振りをしながら近寄ってきた。
見て分かる。私を心配しているんじゃない。藤堂くんの視界に入りたいだけなんだ。