ベルベット
目がまた無意識に墓石の刻字をなぞりながら、思ったままを。

極道って職業を選んだだけの、普通より温かくて真っ直ぐな親で、きっと普通より仲良い家族で。警察官でも弁護士でも医者でも、家族を奈落の底に突き落とす外道はいる。・・・都合勝手な解釈と言われたらそれまでだけれど。

「お母さんは・・・タロウを連れて行きたいって電話で話した時、縁を切ってただの真下ちはるとして結婚しなさいって、言ったんだよね」

「え・・・?」

そこで初めて小さく反応が返った。戻した視線がぶつかる。驚いたような強張ったような、初めて見るタロウの表情。

「隠して結婚しても、いつか必ずわたしが苦しくなるから、タロウの両親を本当の親と思って孝行しなさいって・・・笑いながら泣いてた。由弦お父さんもそう言うに決まってるって、全員で盛大に送り出すって。・・・想像できちゃってね、幸せになれって力いっぱい背中を押してくれるみんなの笑顔が。それで、ああ幸せだなって思った。タロウに会わせたくなった、大事な家族を。それでわたしを見る目が変わっても、死ぬほどの後悔はないかなって思ってる・・・・・・」
< 10 / 29 >

この作品をシェア

pagetop