ベルベット
稼業にこだわりない妹が羨ましくもあり、タロウがいい意味で、はるかぐらい大まかな人間だったら。家族を認めてもらいたい願いは、ただの欲張りだろうか。わたしが家族を捨てるのが道理だろうか。

その晩、客間でお母さんと枕を並べた。川の字になって寝たいと、ごねたマー君を秒殺したお母さんはさすがだった。

「・・・あたしにはどれも普通で当たり前だったのよねぇ。洋秋(ひろあき)が組を継いだのも、由弦が洋秋の右腕になることも、ヤマトが由弦の代わりを果たしてくれたことも」

遠く振り返るようにしみじみした声だった。天井の木目をじっと見つめて、わたしは耳を傾けた。

「ちはるは由弦の子なんだからって、どっかで思ってたのかなぁ。あのころ、普通の家に生まれたかったって言われて、ちはるにはちはるの、あたし達とは違う人生が当たり前だったのを、初めて気付けたんだよ。由弦だったらきっと、ちはるが生まれた時にそう言ってたハズなのにね。・・・あたしなんかよりずぅっと懐が広くて情の深い男だったから、娘の未来を守ることだけ考えてたに決まってる」

「・・・訊いていい?」

「なーに?」

「もし・・・お父さんが生きてて、わたしが極道をやめてって言ったら・・・どうしたかな」
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