ベルベット
穏やかな口調はどこか切なげで寂しげで。寝返りを打つと、お母さんも顔だけこっちに向けてくれる。

「ヤマトが由弦を背負(しょ)ってくれたからあたしは、ちはるとはるかと、ここまで生きてこれた。由弦と一緒に生きてこられた。自分に恥じる後悔はひとつもないよ。・・・それが答えかな、あたしの」

恥じる後悔はひとつもない。そのひと言に胸の琴線が震えた。もちろん、言葉だけでお母さんの人生を分かった気になってはいないけれど。誇らしいような、抱き締めたくなるような。

きっとものすごく辛い葛藤を乗り越えて、お母さんとマー君の今があるんだと思えた。

「・・・・・・わたしも、お父さんとお母さんの娘に産まれたことは後悔じゃないから。ほんとだよ」

途端。お母さんの顔が歪んで大粒の涙が零れ。

「やだな・・・、泣かないでよお母さん」

言いながらわたしも涙ぐんでいた。

「あー違うからねっ、これは鼻水っ。最近ゆるいのよ、歳は取りたくないわねぇ~っ」

布団を跳ね上げ、チェストの上のボックスティッシュから数枚引き抜いたお母さんが、勢いよく鼻をかむ。
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