ベルベット
近くのデパ地下でスィーツのお土産も買い、上機嫌なマー君の運転で日が暮れる前に実家に戻った。

「ただいま」

「おかえりー」

お母さんの返事はリビングの方から。玄関のタタキに男物の革靴が一組、揃えてあるのが目に入った。はるかの部屋に奏が来てるんだろうと思った。

「お母さん、奏に」

お茶菓子買ってきたけど。扉をくぐり、そう声をかけようとして固まった。もう少しで手元から紙袋ごと床に落とすところだった。

「ちーちゃん・・・」

ソファの背もたれから覗く後ろ頭は、まさかのタロウだった。

こっちを振り返り立ち上がる。昨日とは違う色のスーツを着て難しい顔をしていた。心の準備がまるで出来ていなかったわたしは、ただ茫然とするだけ。
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