ベルベット
「昨日はちーちゃんを置いて帰るような真似してごめん」

ぽつんとタロウが呟いた。

「一晩寝ないで考えたんだよ俺。・・・でもどれが正解か分かんなくてさ」

「・・・・・・そっか」

「でもやっぱり、ちーちゃんが好きなんだよな俺は」

足が止まった。タロウのつぶらな目が照れ臭そうにわたしを見つめていた。

「俺もちーちゃんも家族が大事なだけで、なのに別れるのヘンだろ。親も大事だけど俺とちーちゃんの人生だろ? そこまでは分かったから来た」

「・・・そっか」

「だってちーちゃんも・・・やっぱり俺が好きだろ?」

うん。

返事をしようと思ってふいに抱き締められた。そんな気障なことをするタイプじゃなかった。手を繋いで歩くのが関の山だった。

薄闇に包まれた道路の端で、スーツの上着に顔を埋めて泣いた。嬉しかった。わたしと生きたいと思ってくれて、本当に嬉しかった。

黙って胸を貸してくれるタロウは、喧嘩の腕もないのにマー君よりも由弦お父さんよりも、わたしには男前だった。
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