ベルベット
思春期の頃は。二人を傷付けるような事もたくさん言って、どうしようもない事を責めて、ひどい娘だった。お母さんが写真立てを抱き締め、咽び泣いてたのも知っていた。

それでも、お母さんとマー君は真っ向からわたしを見据え、投げ出しも放り出しもしなかった。あの揺るぎない愛情に掬われて今の自分がいる。タロウの隣りにいるのを赦せてる。

「けっこう反抗期だったから、お母さんには頭が上がらないかな」

「そうだったんだ」

意外そうに聞こえた。

「わたしが一番みんなを心配させたんだよね、もう親戚中。近くにお母さんのイトコ家族が住んでるんだけど、同い年の(れん)なんてマー君より過保護。いまだに三日に一回はメッセージ送ってくるんだから」

「ちーちゃん、今まであんまり家のことは話してくれなかったからさ。そういうの聞けてすっげぇ嬉しい」

速度を落とし信号待ち。横を向くと、タロウが目尻を下げて破顔する。丸と卵の中間くらいの輪郭の中に、ちょっと垂れ気味なつぶらな目があって、小動物的な顔だなといつも思う。うちの血筋にはないタイプに無意識に惹かれたんだろうか。
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