ベルベット
四十分ほど走って、T字路を右折したところが目的地だった。広い駐車場は、連休とは言えお彼岸でもないせいか、停まっている車もまばらだった。

管理事務所の前でテントを広げている花屋さんで花束とお線香を買い、水をくんだ手桶をタロウに持ってもらう。このメモリアルパークはいつ来ても緑が豊かで、静かで、空気が澄んでいる。今日も涼やかな秋風が抜けて歩くのも心地いい。そう言えば、家族と別で来たのは初めてだったかもしれない。

「・・・今日はアポなしで来ちゃったけどいいかな」

区画ごとに整然と並んだ墓碑のひとつ、真下家と彫られた石の前でぽつりと呟く。

煙草の吸いさしが置かれていたから、ヒロおじさんが手向けたのか。枯れ花を活けかえ、お線香をあげて手を合わせる。まだ何の説明もしていないのに、倣ってタロウも手を合わせてくれた。

じっと墓碑銘を見つめる。この下に眠る人の顔を、わたしは映像でしか知らない。温もりも何も知らない。どんな人だったのか想像しかできない。テレビの向こう側で生きている有名人のほうが、よっぽど手に届きそうに近い。そのぐらい遠い、この人は。

真下由弦(ゆづる)、生まれる前に亡くなった実の父だ。
< 6 / 29 >

この作品をシェア

pagetop