ベルベット
「・・・聞いて欲しいことがあってね」

「うん」

「妹のお父さんはマー君なんだけど、わたしのお父さんは、ここにいる由弦お父さんなんだ」

タロウは黙って耳を傾けてくれていた。

「わたしがお腹から出てくる前に死んじゃって、会ったことなくてね。ちはるって名前はお父さんが考えてくれたんだって。男の子でも女の子でも『ちはる』で、三人とも『る』がお揃い、ってお母さんの口癖。・・・なんで生きててくれなかったのって思うこともあったけど、物心ついた頃にはマー君がいたし、寂しくはなかったかな・・・」

お父さんの弟分だったらしいマー君は、伴侶を突然失くした身重のお母さんを傍で支え、わたしが小学校に上がった時に新しいお父さんになって、はるかが生まれた。ヒロおじさんだけじゃなく、お父さんのお兄さんのおーちゃんも、娘のように可愛がってくれた。みんながお父さんの代わりだった。

「わたしにとって父親はマー君だったし、これからもそう。でもタロウには、お父さんの事を話したいって思ったから。あたしのことも知ってもらって、それで決めてくれればいいから」

「決めるって・・・、なにを?」

「結婚できるかどうかを」

時が経って年季を感じる桜御影石。縫い止めていた視線をゆっくりタロウへと振り向ける。
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