ベルベット
どうしても分かってもらおうとか、欲張りに考えない。ありのまま言葉を紡いでいく。

「お父さんとお母さんは幼馴染で、お父さんがお母さんにずっと片思いだったみたい。やっと結婚して、すぐわたしができて、まだ新婚ほやほやでお父さんは死んだ。・・・刺されたんだって、逆恨みで」

本当のことを知ったのは中学生になった頃。それまで曖昧に濁されていたのを問い詰めた。大人達が優しさで包んでくれていたオブラートを、自分で溶かしたのだ。

「犯人がどうなったかとか、そんなのはどうでも良いんだけど、自分が普通の家の子とは違うんだって思い知らされた。思春期真っ盛りでぜんぶ親のせいにしたし、マー君とお母さんはすごく苦しかっただろうなって後悔してる。家を離れたら、自分なりに気持ちが整理できる気がしたんだよね。・・・それでタロウとも出逢えた。結婚したいって思える人をお父さんに会わせる勇気が出たのは、やっぱりタロウだからかな」

これからわたしが口にする言葉は、やっぱり跳ね返されるのかな。期待するのは身勝手すぎるかな、タロウなら受け止めてくれるって・・・!

「お父さんはね、ヒロおじさんの組の若頭で、マー君はお父さんの舎弟だったんだって。二人はお父さんを死なせたことを悔やんで、お母さんとわたしを絶対に守るって誓って、たぶん普通の人にはできないくらい尽くしてくれたと思う。・・・ヤクザの娘に生まれたことは理不尽でしかないけど、不幸だとは思わない。みんながくれた愛情は本物で、わたしを育ててくれたみんなを本当に大好きだから」
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