婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
プロローグ

 絢爛豪華な皇帝の謁見室で、私は窮地に立たされていた。

 数段高い位置に、ひと際背の高い重厚な造りの椅子が置かれ、長い足を優雅に組んだ仮面の男が私を見下ろしている。その男の凛とした低めの声が響き渡った。

「いいか、よく聞け。この仮面のせいで皇后候補にはことごとく逃げられた。俺に近寄ってくるのは邪念がある者だけらしい。つまり女など信じられないということだ」

 目の前の男は、このディカルト帝国の皇帝だ。

 偉そうに玉座にかけている皇帝の顔には、鼻から上を覆う仮面がつけられていて表情が読みにくい。でもそんな言いがかりに近い物言いに屈する気はない。

「そうね、でもそれは立場的に仕方ないんじゃないかしら?」

 だってそんな人しか寄ってこないのは、私のせいではないもの。

「立場的なものは理解している。邪念を持っていたところで俺がうまくコントロールしていれば済む話だ」
「……そうね」
「だが、そんな女ですら伴侶にできないと後継者問題が出てくる」

 確かに、帝国の皇帝ともなれば後継者は必須で避けて通れない問題だ。しかもこの皇帝は即位する際に一族を皆殺しにしたと聞くから、現状のままだと目の前の男で皇族の血は途絶えることになる。

 ちなみにその時の出来事がきっかけで悪魔皇帝と巷では呼ばれていた。
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