婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
あっという間に屋敷に着いて、いつものように馬車から降りる。わたくしが帰ると出迎えるはずの家令も侍女も誰もいなかった。
「ちょっと! わたくしが帰ってきたのに出迎えもないなんて、どういうことなの!?」
怒鳴りつけても誰も出てこない。そこへお母様の叫び声が聞こえた。
「そ、そんな! お願いだからここに置いてちょうだい! 行くところなんてないのよ!」
それはお父様の執務室から聞こえてきた。そういえば、会議で家督を譲れって陛下が命令していた。それなら、今この侯爵家の当主はお兄様だ。急いで階段を駆け上がり、廊下の奥にある扉を開いた。
「お兄様! お母様!」
「シャロン! ねえ、助けてちょうだい! ここから追い出されそうなのよ! それに、あなたが聖女ではなくなったなんて嘘でしょう?」
お母様の言葉に耳を疑った。お兄様は当主になってすぐさまわたくしたちを追い出そうとしている。いくらお父様が罪人として捕まったとはいえ、わたくしたちがここから出ていく理由はない。
「お兄様! この仕打ちはあんまりだわ! お母様もわたくしも家族でしょう! ここで暮らす権利はあるはずよ!」
「家族だって?」
聞いたことがないような、冷たい声が突き刺さった。