婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
あの女と同じ翡翠の瞳は静かな怒りを孕んでいる。
「お前たちは僕のたったひとりの妹である、セシルを追い出しただろう! あの時は僕に力がなかったから守れなかったけど……自分たちの都合のいいことばかり言うな!!」
「だって、闇魔法の使い手なんて危険じゃない。それにわたくしだって半分は血のつながりがあるのよ!」
そこでお兄様は鼻で笑って、書類を投げつけてきた。バラバラと床に広がるのはなにかの調査結果のようだ。
「お前は僕の妹じゃない。血のつながりなんてないからな。父上を騙して侯爵家に転がり込んだ、詐欺師の娘だ」
バッとお母様に視線を向けると、青い顔でガタガタと震えている。お兄様の言ったことが真実なら、貴族を欺いた平民は間違いなく投獄される。
慌てて数枚の書類を拾い上げて読んだ。
そこに書かれていたのは、お母様の当時の暮らしぶりだ。お母様は酒場で給仕の仕事をしていて、複数の客と関係を持っていたらしい。その中のひとりがお父様だった。
最後の書類には、わたくしとお兄様に血縁関係がないとはっきり書かれていた。
「嘘……そんな……」
「そもそも、こちらの家系にお前のような髪色はいない。お前の母親もブルネットだし、光属性の魔法適性もない。父との間にお前のような子が生まれるのがおかしいんだ」
今まで信じていたものがガラガラと崩れ落ちていく。わたくしは貴族の令嬢で、光属性が使える聖女で誰からも愛されていた。
それがたった一日で、すべて幻のように消えていった。