婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
フューゲルス公爵家は馬車で三十分ほどだ。荷物を置いてきたのはわざとだった。唯一の特技で自由自在に涙を出せるのから、これでエル様に決断させるしかない。
馬車から降りて門番にエル様を呼んでほしいと頼む。わたくしの顔は覚えてくれているから、あっさりとエル様に会えた。
「シャロン! どうしたんだ? 突然会いにくるなんて……今立て込んでいて手が離せないのだが……」
「エル様っ! わたくし、どうしたらいいかわからないの! このままでは二度とエル様に会えなくなってしまうわ!」
そう言いながら、ポロポロと涙をこぼせば真剣な表情でわたくしの話を聞いてくれる。本当に扱いやすい男だ。
「シャロン、なにかあったのか? 私の婚約者なのだからいつでも会えるだろう」
「それが、お兄様が当主になったら、わたくしが追い出されてしまったの。お母様は冤罪をかけられて、騎士に連れていかれたわ。エル様との婚約も解消すると言っていたの。だから、もうエル様とは会えなくなってしまうの……!」
「なんだって!?」
やはりお母様がお父様を騙した話は知らないみたいだ。このまま押し切ってしまえば、目的は果たせそうだ。
「エル様、わたくしどうすればいいの? 明日には貴族籍からも抜かれて、平民になってしまうわ。そうしたらエル様にもう会えない……!」
「シャロン、今すぐ婚姻しよう。反対していた父上はいないし、母上も領地に下がってもらう。当主の私の意見は絶対だ。私がシャロンを守るよ」
「エル様! エル様ぁー!!」