婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
レイには一カ月後に出ていくので、なにも話さないことにした。これから先のことを、レイと話す気にはどうしてもならなかったのだ。
そして月が東の山から顔を現した頃、ミリアムとフィオナが私のもとへとやってきた。
「フィオナ、準備はできてる?」
「うん、大丈夫」
「魔女になったら、もとに戻れないけど本当に後悔しない?」
「うん、絶対に後悔なんてしない」
「わかったわ。じゃあ、始めるわね」
最後の確認を済ませて、フィオナの額にそっと手をかざす。
私が魔女になった時はリリス師匠に洗礼を受けた。あの時のことを思い出す。絶望に染まっていたけど、魔女になってからは毎日必死で、それでも楽しくて。優しさに触れて立ち直った。
どうかフィオナの未来も明るいものでありますように、そう願いを込める。
【星は流れて天を巡り、運命のもとに集い願う。汝に眠る呪われた血に今目覚めよ。解放】
手のひらから魔力を流し込めば、呪文によって発動した魔女の力がフィオナの未成熟な身体を駆け巡る。弾かれたように後ろへと倒れていったのを、ミリアムが受け止めた。