婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
「家? 皇城があるのに?」
なにか街の視察の時にでも使うのだろうか。お忍びで使うなら拠点があった方が便利なのかもしれない。
「セシルが住む家だ。前の住まいはもう引き払っただろう?」
「あ……そういう、ことね……」
確かに皇城に来て一カ月くらいの時に、家賃がもったいないからと荷物を引き上げて契約解除してもらったのだ。今まで浮かれていた気持ちはきれいに霧散して、沼の底へに沈み込んでいくみたいに気持ちも落ちていく。
なにを馬鹿みたいに浮かれていたんだろう。
レイはただ私が皇城から出ていった後の住処を用意しようとしているだけだ。そんなの用意する必要ないのに。
結局、私は成長していないのだと痛感した。婚約破棄された時のことがフラッシュバックして、周りからも音が消えていく。
「セシル? 大丈夫か?」
「うん、あの——ううん、その、どんな家なの?」
家なんていらないと言おうと思ったけど、レイの嬉しそうな顔を見たら断れなくなってしまった。
皇帝の執務をこなしながら作ってくれた時間だし、断ったらこの時間が終わってしまいそうで余計に言えなくなった。