婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
それに最初からわかっていたことなんだから、こんな風に落ち込む方がおかしいのだ。レイは私がいなくても、全然平気みたいな顔で話を進めているから、ちょっとだけムカつくけど。
「セシル、ふたりで住むならこれくらいの広さがベストだと思うがどうだ?」
ふたりって……あ、ミリアムからフィオナのことを聞いたのか。さすがに十歳の子を連れて路頭に迷うわけにはいかないものね。
「うん、いいわね。じゃぁ、ここでいいわ」
「そうか。ではこの家を妻名義で購入したい」
もう妻のふりもしなくていいのに。ああ、契約期間だから仕方なくか。あの契約に縛られているのは私だけじゃない。
「もしかしたらって……思った私が馬鹿だったわ」
もしかしたら、レイも少しは寂しく思ってくれてるのかもって。だから今日は街に出ようと誘ってくれたのかもなんて考えてた。
「なにかあるか?」
「ううん、なんでもない。ありがとう、レイ」
「これくらい、なんでもない」
仮面があるからわからないけど、いつもみたいな尖った空気が少しだけ和らいでいるように感じる。私と離れるのがそんなに嬉しいのかと思ったら、落ちていく自分の気持ちをもうとめられなかった。
「他に買いたいものはあるの?」
思ったよりも低い声になってしまったけど、真剣に悩むレイは次は生活に必要なものを揃えるのだと、商人の持ってきたカタログを開いた。その家に住む私よりも、よっぽど真剣に選んでいた。