婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!

 皇城の外に出ると空は青く晴れ渡り、心地のよい風が頬を撫でていく。

 もともと持っていた洋服の中から一番マシなワンピースに着替えていたから、傍目から見れば少し裕福な家の娘に見えるだろう。フィオナを連れているから、もしかしたら親子に見られているかもしれない。

 皇后としてきていたドレスや装飾品は、私には必要ないからすべて置いてきた。次の妃が来るまでにあちらで処分してくれるだろう。

 小さめのボストンバックとキャリーケースがひとつ。それが私の持ち物だった。侯爵家を出た時よりもほんの少し増えた荷物に、自分の努力の成果だと実感できた。

 私はレイが用意してくれた家を使うつもりは最初からなかった。そもそもなんの約束も果たしていないから、受け取る資格なんてない。フィオナが独立するときに使ってもらえばいいかな、なんて考えていた。

「フィオナ、とりあえずどこかに宿を取りましょう。新しい部屋を見つけて、薬屋でも開こうか?」
「はい! セシル師匠!」
「ふふ、いい返事ね。このひと月も修行を頑張ってたから、影移動もできるようになったし、ミリアムから薬草を仕入れるのも任せられそうね」
「えっ! そんな大事なお仕事を任せてもらえるのですか!?」

 母のミリアムからも相当厳しく躾られたので、フィオナの言葉遣いもすっかり大人びてしまった。別に前のままでいいと言ったら、私がミリアムに怒られたくらいだ。


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