婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
イリアスが言いたいのは、影を使ってすべてを監視するということだ。
いや、それはダメだ。
俺とふたりきりでいる時のセシルの愛らしい様子を、影といえども他の奴らに見せたくない。
「いや……そうではない。すまない、ショックが大きすぎて、八つ当たりした」
なんということだ、ここにきて取り返しのつかない失敗をしてたと発覚したなんて。それでも、ここで気付けてよかったのか。
そうだ、まだ巻き返す機会はあるはずだ。
「陛下がセシル様を想っておられるのは承知してますが、私にとってセシル様も同じくらい尊いお方なのです」
俺の命を助けたセシルをイリアスが敬愛しているのは知っている。
しかも先日、魔女の件で同行した時にセシルの高潔さや広い心、優雅に圧倒的な魔法を使う姿を見て、さらに心酔したのも知っている。
「もし陛下が原因でセシル様が涙するなら、アマリリスの魔女の手など借りなくとも、私が処分いたしますよ?」
「ああ、そんなことはしない」
「どの口が言っているのですか?」
「……すまない」
これは、イリアスが今までに見たことないほど、腹に据えかねているようだ。ここから先はセシルの心を手に入れるまで、わずかなミスも許されない。