婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!

「それでは、準備はもうできているのだな?」
「もちろんです。だからこそ陛下に現実を突きつけたのです」
「はっ、手厳しいことだ」

 ようやく準備が整った。
 セシルと夫婦のまま、皇后の立場から解放するにはこれしかなかった。

 どんなものからもセシルを守りたくて手にした地位だったが、それも今日までだ。俺が皇帝を退位すれば、すべて解決する。
 そうすれば、セシルは自由になり命を狙われることもなくなり、本当に嫌なら俺からも逃げ出せる。

 次の皇帝になるのはイリアスだ。宰相として今まで尽力してくれて、頭も切れる最高の適任者だ。

「では俺からサインしよう」
「……お願いします」

 サクッとサインを終えて、イリアスに分厚い羊皮紙を渡した。

「陛下っ! 緊急事態です!」

 ブレイリーが執務室のドアをノックもせずに開けて、大股で俺の前までやってくる。ここまで焦った様子のブレイリーも珍しい。

「なにがあった?」
「セシル様がフューゲルス公爵家に攫われました」


< 168 / 215 >

この作品をシェア

pagetop