婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!

     * * *

 真紅のマントがひらりと揺れる。

 キンッと甲高く響く金属音が、耳に突き刺さった。
 私の首もと目がけて振り下ろされていた切っ先は、弾き飛ばされてクルクルと空中を舞って床に落ちる。

 視線を上げるとそこにいたのは世界で唯一、私の心を揺さぶる(ひと)

 真紅のマントがよく似合う王者の風格。鍛え上げられた身体は頑強で、あふれ出す魔力は他者を寄せ付けない。

 窓から差し込む光に照らされた、アッシュブロンドの髪がサラリと流れる。禍々しい仮面の奥から覗く瞳は、海のように青く煌めいていた。少しだけ息が上がっていて、急いで来てくれたのだと思えば、嬉しさに心が震えた。

 エルベルトが呆気に取られて魔力供給が途絶えてしまったのか、さっきまでの重苦しさも息苦しさも感じなくなっていた。

「レイ……!」
「セシル、怪我はないか? 痛いところは?」

 目の前の兵士たちを無視して、私の心配をしてくれる。
 そんなレイに思わず笑みがこぼれた。

「ふふっ、大丈夫よ。大したことないわ」
「っ! 首を怪我しているではないか! しかも足だって、靴を履いていないから傷だらけだ……手もこんなに赤く腫れ上がって……」
「あ、違うの。手は自分でやったのよ」
「いや、そんなことは関係ない。この環境にセシルを置いていたことが罪なんだ」

 あら、レイの瞳からどんどん光がなくなっていっているわね。ちょっとこれは、まずいのではないかしら?


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