婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
「遅いしぬるいわ」
左手で黒い雪の結晶を出して、魔術士の放った魔法を相殺した。ほんの一瞬で上級魔法を打ち消せば、魔術士の顔色が青くなった。
「くそっ、化け物だな!」
「レディに向かって化け物とは失礼ね」
すかさずもうひとりの魔術士が詠唱をはじめる。
【風の精霊よ、大地の精霊よ、我が声を聴きたまえ。我が望みは——】
「だから遅いのよ!」
両手から黒い雪の結晶を放ち、魔術士を拘束してその口を塞いだ。レイが気になって振り返ろうとしたところで、また体に自由が聞かなくなり息ができなくなる。
「この、薄気味悪い魔女めっ! これで動けないだろう!」
「今のうちよ! 魔法でもなんでもいいから仕留めなさい!」
だけど、魔術士たちは手足も口も塞がれているので身動きが取れないし、エルベルトも指輪に魔力を注いでいるから動けない。
「シャロン、お前がとどめを刺すんだ! 剣ならその辺に落ちているだろう!」
「ええっ、わたくしが!?」
だけど、他に動ける人間がいないと理解したのか、シャロンはよろよろとした足取りで落ちていた剣を拾い上げた。