婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
仮面の奥から覗く瞳は、私でも震え上がるくらい絶対零度の冷気を孕んでいた。こんな風に睨まれたら、屈強な騎士でも膝が震えてしまうだろう。
ましてや貴族令嬢なら、立っていることすらできない。シャロンは真っ青な顔で震え、剣を落として膝をついた。
そんな様子のシャロンを気にすることなく、レイは非情な宣告をする。
「シャロン・フューゲルス。貴様は皇后殺害の現行犯で極刑だ」
「お、おま、お待ちくださいっ! この女はすでに皇后ではございませんでしょう!?」
「そうよ、レイ。私はもう妻じゃないでしょ」
極刑と聞いたシャロンが、必死な形相で皇帝に異議を申し立てている。私もレイの言っていることがわからなくて、初めてシャロンに同調した。
「なにを言っている。俺はセシルと離縁などしていないし、する気もない。だから今はまだセシルは皇后で間違いない」
「————————はい?」
「そ……んな……」
いつかと同じような状況に、頭が痛くなった。
いったいこの悪魔皇帝はなにを言っているのだろうか?
微妙な空気が流れる中、ブレイリー団長がやってきた。そのあたりに倒れている兵士たちを見て、すべてが終わっていると理解したようだ。
「最恐か……いや、最凶夫婦だな」
そうしてブレイリーがつぶやいたひと言に、反応する気も起きなかった。