婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!

 元婚約者に言われた最後の言葉が、私の心にこびりついている。だから魔女になってからも決して帝都ジュピタルには近づかなかった。

「それでしたら私と一緒に来ていただければ問題ありません。ご安心ください」
「でも……」
「大丈夫です。この命令はなによりも絶対的ですから」

 にっこりと微笑むブレイリー団長の笑顔に、私は引きつった笑顔しか返せなかった。



 移動時間を短縮するために転移の魔道具まで使って、本来出禁であるはずの帝都に、しかも皇城に移動してきた。皇城なんて初めてで思わず周りをキョロキョロ見てしまう。

 飾られている絵画も通路に置かれている壺も、窓にかかっているカーテンをまとめるタッセルさえも、なにもかもが上質で煌びやかだ。
 自分を振り返ると楽なワンピースに洗ってクシを通しただけの髪で場違いすぎるが、今更どうにもできない。

「それでは解呪の魔女様、こちらへお願いいたします」

 ブレイリー団長の案内でぎこちなく足を進めた。どんどん皇城の奥へと進んでいく。階段を登り廊下を進んで右に曲がり、今度は階段を降りて左に曲がる。どこをどう進んでいるのかわからなくなって、必死に後を追った。

 やがてブレイリー団長はひときわ豪華で重厚な扉の前で足を止める。私に振り返って様子を確認してから、両サイドに立つ騎士たちに合図を送りゆっくりとその扉が開かれた。


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