婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!

 その先には赤いカーペットが真っ直ぐと奥まで続いていて、数段高くなったところに金や宝石で飾られた絢爛豪華な椅子に男性が座っていた。ブレイリー団長は男性の前までツカツカと進み膝をつく。

「皇帝陛下、解呪の魔女様をお連れしました」

 恭しく(こうべ)を垂れたブレイリー団長の後ろで、私は呆然と突っ立っていた。

 私を呼びつけたのが、ディカルト帝国の皇帝だったのが理由じゃない。なんとなく察しはついていた。皇族を守るべき第一騎士団長にこんな命令をできる人物なんて限られているし、やってきたのが皇城だった時点で逃げられないと覚悟も決めた。

 でもそうじゃなくて。

 私の魂が半抜けかけている原因はまったく別のところにあった。

 一年前にクーデターを起こし、わずか五十名足らずの精鋭で皇城を制圧して前皇帝を倒し即位したレイヴァン・オブ・ディカルト。当時の近衞騎士たちを手玉に取った見事な手腕と容赦ない冷酷非道な様子から、ついた呼び名が悪魔皇帝。

 私は過去に一度だけ呪いの魔道具を作ったことがあった。それは魔女の修行の一環で、鼻から上を覆うハーフマスクにありったけの呪いを込めたのだ。

 嘘みたいだけど、私が作った呪いの仮面が、恐れ多くも悪魔皇帝のご尊顔に張りついていた。さらに仮面はこれでもかというほど禍々しいオーラを発していて存在感が半端ない。


 どこをどう巡ってここまでやってきたのか、嘘みたいな本当の話だ。


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