婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
皇帝が呪われた仮面をつけていることすらトップシークレットで、周りには怪我をしてひどい傷跡が残ったために仮面をつけて隠していることにしているそうだ。
口外しないことも婚姻誓約書に盛り込まれていたから甘んじてこの状況を受け入れているけど、上から羽織るのがこれまたペラッペラのテカッテカしたガウンしかないのだから心許ない。
皇帝夫婦のための寝室に押し込まれて、世話をしてくれた侍女たちは準備が整ったら下がってしまった。ひとりソワソワしていると小気味いいノックの音が室内に響く。
「セシル、俺だ。入っていいか?」
ついに悪魔皇帝がやってきてしまった。解呪に専念する一年間は仲のいい夫婦であると見せることも魔法契約の内容にあったので、初夜に追い返すこともできない。
出迎えるしかない……この格好でだ。なんの嫌がらせだ。ああ、私が仮面を作ったからその腹いせか。
深いため息をついて、扉をそっと開いた。
「へえ、熱烈な歓迎だな」
私の格好を見てニヤリと笑う悪魔皇帝にイラッとしつつ、部屋に入ってくる元凶に悪態をつく。
「好きでこんな格好してないわ。せめて荷物くらい取りに帰らせてよ」
「それは構わないが、皇后としてふさわしい格好をしてもらう必要がある。解呪の魔女はそのような衣装を持っているのか?」
「…………ないわ! 持ってるわけないじゃない!」
悪魔皇帝は蔑んだ言い方でもなかったし、単純に疑問で返されただけなんだけど私が面白くなくて噛みついてしまう。それなのにまったく気にした様子もなく、ベッドに腰を下ろした。