婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
第一章 解呪の魔女
「セシル・マックイーン! お前のような陰湿な女とはこの場で婚約破棄をする!」
その日は私のデビュタントだった。
キラキラと輝くシャンデリアが飾られた会場はシンと静まり返っている。夜会が始まるのはもう少し先で、まだ音楽すら流れていない。
「えっ……エルベルト様、どういう事ですの? あの、私がなにかしましたでしょうか?」
「なんだと! 私が言わないとわからないのか!?」
「も、申し訳ありません……」
貴族の令嬢や令息たちは十六歳になる誕生月に社交界に大人として初めて夜会に参加する。それはデビュタントと呼ばれ、貴族の一員として認められる大切なイベントだった。
侯爵令嬢だった私も半年前からこの日のために準備をして、デビュタントの証である白いドレスを身にまとっていた。そしてデビュタントのパートナーは親族と決まっているから、兄のユリウスと一緒にやってきていた。
たった今、兄にエスコートされて会場に入ってきたばかりだった。兄が友人の元へと向かった直後に待ち構えていた婚約者、公爵令息のエルベルト・フューゲルス様から突然の宣告を受けたのだ。
蔑みと興味本位の遠慮のない視線にさらされていたたまれない。でもそれよりも八歳の頃から婚約者として慕ってきた大切な人に言われた言葉が頭の中を駆け巡っていた。
こぼれ落ちそうな涙を必死にこらえて、なんとか婚約者の気持ちを確かめようと声をかける。
「エルベルト様……せめて理由を教えていただけませんか?」
「言っただろう、お前のような陰湿な女などお断りだ! とにかくこれ以上お前の顔など見たくない! これからはシャロン・マックイーンが私の婚約者だ!」
心臓を鷲掴みされたような衝撃が私の身体を駆け抜けた。現実だと受け止めたくない、なにかの間違いであってほしいと震える声がこぼれる。