婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
「そんなことないわよ。師匠なんかしょっちゅう呪いにかかってたし」
「この仮面の製作者だからか?」
「それもないと思うわ。そんな器用な呪いなんてかけてないもの」
「ならば、セシルには邪心がないということか?」
「そうね、少なくとも皇后の身分にも贅沢な暮らしにも微塵も興味ないわね」
ついでに悪魔皇帝にも興味はないと言いたかったが、飲み込んだ。ここでの暮らしはこの男にかかっているのだ。迂闊なこと言って機嫌を損ねるのは得策ではない。
「……なるほど、魔女ともなれば皇族すらどうでもいいのか」
「魔女にそういう人は多いと思うけど、私は特に貴族や王族なんてなりたくないわ」
ほんの少しだけ本心をこぼした。
市井で暮らし始めて感じたのは、なにもかも自分で決めて生きていく自己責任と自由があった。贅沢をしたければガンガン働けばいいし、ほどほどでいいならのんびり仕事をこなす。
なんのしがらみもない暮らしがこんなに快適だとは思わなかった。私は心から自由だったしそれを手放すつもりもない。
「だが、俺に触れてものたうち回らない女は貴重だな」
獲物に狙いを定めたような妖しい視線に、ゾクリと悪寒が駆け上がる。