婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
もっと見ていたかったのに視界が暗くなっていって、俺は闇に閉ざされた。右手には俺の魔力をまだ吸い上げようとしている魔剣がピッタリと張りついている。俺が死ぬまで離れないんだろうと思っていた。
ところが急に重苦しい空気が薄れて穏やかな魔力の波動を感じた。力の入らない右手から魔剣が床の上に落ちて、ガシャンッという金属音をたてる。重みを感じなくなった右の手のひらが空気に触れた。
……? なん、だ? 魔剣が離れた……俺は生きてるのか?
クラクラする頭を右に向けると、黒いローブを羽織った彼女が背を向けて出ていくところだった。
瞳を閉じれば鮮明に浮かび上がる、彼女の真剣な眼差し。魔女の証と言われる真紅の瞳は宝石みたいに綺麗だった。
世間で魔女は忌避されている——だが、それがどうした?
俺の命を助けてくれたのは解呪の魔女だ。彼女の温かく柔らかな魔力の波動は心地よく、なにものにも変え難い。
俺にとって彼女は女神だ。
どうやったら彼女を手に入れられる?
どうやったら彼女は俺だけを見てくれる?
闇の中へ落ちていく意識の中でそれだけを考えていた。