婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
それから体調が戻るのを待って帰還し、皇帝に報告を終えた時だ。
『報告は以上でございます。それでは——』
『ご苦労であった。ああ、それから、お前の母親が五日前に息を引き取った。こちらで処理しておいたが、離宮はそのまま残してやるから好きに使え』
一瞬、なにを言われているのか理解できなかった。
母上が息を引き取っただって? 俺が出立するのを心配そうに見送ってくれたんだぞ? 無事に戻ってほしいと、願っていた。その母上がもういない?
『なんだ? 話は終わりだ。下がれ』
俺はなにも言えずに皇帝の間を去った。
そして今聞いたことが真実なのか確かめるために、駆け足で離宮に向かった。
『母上っ!』
いつもなら無事に帰った俺を笑顔で迎えてくれていた。
その母は離宮のどこを探してもいなかった。返事もなにも返ってこない、その静寂が皇帝の言葉は真実だと肯定する。
『そんな……どうして……』
やっと母上に紹介したい女性に出会ったと話をするつもりだった。俺はただひとりの女性を愛して大切にすると、宣言しようと思っていた。あふれる涙をふきもせず呆然としていた。
二週間前に見送ってもらったのが最後だなんて、信じられなかった。
なにかあったのだと調査してみれば、母上は毒殺されていた。犯人は皇后だ。理由は俺を離宮に戻らせず魔物討伐に狩り出したかったからだ。母上がいるから戻ってくるのであれば、戻る理由をなくせばいいと手にかけたのだ。