極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
「……ありがとうございます」

 それしか言えなかったのに、すぐ情けなくなった。

 ここはスムーズに微笑んで、「Thank you」とでも言うところなのに……ハワイのスマートな女性ならそうするだろうに……。

 自分ははにかんで、日本語でお礼を言うしかなかった。

 なんて慣れていなくて格好悪いんだろう。

 思ってしまったのに、彼は笑みを崩さない。

 そっとキャリーケースを元通り立てて、自分も膝を上げた。

 果歩も慌てて立ち上がる。

 だが長くしゃがんでいたからか、少しふらっとした。

 ここしばらく、不眠が続いていたのもあったのだろう。

「あっ……」

 軽い立ちくらみのようになってしまう。

 その様子を見た彼が、果歩の肩を、がしっと支えてくれた。

「失礼。大丈夫ですか?」

 丁寧に言われる。

 手袋をはめた大きい手が、肩をしっかり包んでいる。

 しかも支えられたくらいだから、距離が近い。

 ふわっと、シトラスのような爽やかな香りが鼻に届いた。

 ちょっとくらっとしただけなのだから、果歩はすぐにハッとして、恥じ入った。

 今度はふらついてしまうなんて。

 慌ててどこうとしたのに、彼はしっかり肩を包んで、果歩が倒れないようにそっと立たせてくれた。

 果歩はどきどきしつつも、感じ入ってしまう。

 手袋越しでも手があたたかいのがわかったし、がっしりしているのも伝わってきたし、それに触れる手つきがとても優しかったのだ。
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