極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
 でも翔はやはり、にこっと笑うだけだった。

「ああ、もちろん。バッグはないと困るだろう?」

 それもまた、確かにそうなのだが……。

「そうだけど……、バッグなら、……あ……」

 バッグならある。ここまで持ってきて、使っていたものが。

 だが、それを見た瞬間、駄目だと悟った。

 ワンピースも、アクセサリーも、どう見ても合わない。

 旅行鞄なのだから実用性重視のものを持っていたのだ。

 どう見ても、このドレッシーな格好にはアンバランス。

 だから、どう見てもこの、ころんとしたかわいいバッグのほうがよく似合う。

「さ、必要なものだけこれに入れておくれ」

 翔に促されて、果歩は近くのテーブルで、あたふたと、と、おろおろと、が混ざったような気持ちで中身を詰め替えた。

 といっても新しいバッグは小さすぎて、ほとんどものが入らなかった。

 きっと実用性よりも、ファッション重視で持つようなものなのだ。

 結局、二つ折り財布とスマホ、もらったばかりのハンカチとティッシュ、コンパクトミラーとリップ……、それだけになった。

 荷物の残りはバッグごと、やわらかな布の袋にくるまれて、大きな紙袋に入れられてしまった。

 果歩がここまで着てきた服や靴を入れてもらったものだ。
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