極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
 なにを言ったものか悩んでしまった間に、翔が動いた。

 手を持ち上げ、髪をくしゃっとやる。

 それはまったく、ハワイで過ごしたあのとき、何回も見ていた仕草、そのままだった。

「……果歩は本当に優しいひとだ。まったく変わってない」

 噛みしめるように言われた。

 だが果歩にとっては意外だった。

 そんなふうに思われるとは、言われるとは思わなかった。

「こんな酷い男、責めて(ののし)ったっていいんだ。責任を取れと言っていいんだ」

 翔はもはや、自嘲するように言う。

 まったく考えていなかったので、果歩はおろおろしてしまった。

「そんなこと……しないよ」

 ひとまず果歩の思いや考えは伝わったのは確かだ。

 そのあと、翔は別のことを言った。

「その、……失礼なのは重々承知だが……、あの子は……」

 ためらい、ためらい、といった様子で、また戸惑っているような響きもあったが、聞かれてしかるべきことであった。

 こういう話題が出ること自体はわかっていたし、想定していた果歩は、そのまま肯定する。

「うん。翔さんの子……だと思う」

 最後だけ少し不確かになった。

 DNA鑑定などはしていないのだから、100%なのかはわからない。

 だが果歩にはこのタイミングで関係を持った男性はほかにいないのだし、翔からそれを知るすべはないだろうが、果歩がそう言うなら、ほぼ確定だと受け取るだろう。

「すまない! 本当に……、すまない……」

 果歩が肯定して数秒後。

 がばっと翔が両手をテーブルにつき、頭を深々と下げていた。

 果歩は驚愕する。

 これほど勢いよく、おまけに悲痛な声で謝られるなんて。

 理由はわかるけれど、ここまでとは想定外だ。
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