太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
母と真実/side諒
俺がロビーへ向かうと、麻依が日野さんにお茶を出しているのが見えた。
…日野…
…日野 諒、だったのか?俺は…
…思い出せない…
また足が止まる。
頭を冷やしに席を外したはいいが…
まだぐちゃぐちゃしてる。
戻ったところで何を話せばいいんだ…
まとまらない頭でロビーに向かうと、麻依が日野さんに何か話し始めたから…俺はそうっと麻依の後ろに近づいていった。
途中、日野さんが俺に視線をよこしたから、人差し指を口に当てて〝黙ってて〞と要請すると、日野さんは何もなかったかのように目線をまた麻依に向けてくれた。
麻依はまだ俯いていたから、日野さんのそれに気付かずに話し続けている。
俺は麻依のソファの後ろでしゃがんで聞いていた。
………
………
……麻依……
…麻依の気持ちが痛いほど伝わってきて…正直泣きそうだった。
麻依は自分の思いとして語っていたようだけど…それはもう俺の気持ちを代弁していたも同然だった。
と同時に、ぐちゃぐちゃとこんがらがっていた俺の心を整理してくれているようだった。
どうしてこの人はここまで俺をわかってくれているんだろう…
本当に…
絶対に…
俺は麻依を離さないから。
俺が離れないから。
話し終えた麻依の肩が少し下がった。
麻依も緊張していただろうに、俺のためにそこまでして…
「麻依」
「ぅわあっ…あ、諒…え?いたの?いつからいたの?…え、まさか聞いてたの!?」
徐に立ち上がって後ろから声をかけたら、この驚きよう。
そりゃ俺がいない体で話してたんだから驚くのは当たり前だし申し訳ないとも思うけど、思わず吹いてしまった。
「フッ、ごめん。今の最初から聞いてた」
「ぇえー!ちょ…待っ…」
ふ、真っ赤になって言葉を失っちゃった。
あれだけ主張してたのに、この変わりよう。
可愛いって言う他に言葉がないでしょ。
あ、愛しいって言葉はあるな。
こんなにすごいのに可愛い麻依を見たら、緊張がほぐれて心が軽くなった。
もぅ…どんだけ俺を助けてくれんの…
マジで神でしょ、マジもんの美しき女神。
そして俺はまた麻依の隣に座り、日野さんを見た。
「日野さん…俺はまだ困惑というか混乱しています。さっきは何をどう話したらいいのかさえわからない状態でしたし…。ですが今、麻依が話してくれたこと…あれが全てです。麻依が、俺の話したいこと、話すべきことを全部きっちり言ってくれました」
麻依を見て微笑むと、俯いていた麻依はチラと俺を見て照れたように笑った。
可愛い。抱きしめたい。
「すみません、心の整理をするのにもう少し…時間をいただけますか」
「ごめんなさい…あなたを苦しめたかったわけではないのに…いきなり来てしまって…またあなたを苦しめてしまった…」
「そうではありません。苦しいのではないんです…混乱はしてますがね」
何だろう、麻依がいてくれるお陰で、少し心の余裕ができた気がする。
「落ち着いたら…連絡してもいいですか?」
「えっ…」
「あぁ迷惑でしたら…」
「いえっ、まさかそんな風に言ってもらえるとは思ってもみなくて…驚いてしまって…。私は今のあなたの生き方の邪魔をしてはならないから、これ以上は関わらないつもりで…」
「…もし…佐伯の母がいいと言えばですが、母に会ってもらえませんか?」
「え……それはどういう…というより、そんな失礼なこと…」
「佐伯の父は俺が12歳の時に亡くなりました。そして母は病気で入院していますが…たぶんそんなに長くはありません」
「そんな…!だったらお会いするなんて尚更…」
「いえ、だからこそ生きてる内に会ってほしいんです。あなたに代わって俺を育ててくれた母に」
「…そうですか…もしお母さまが会うことをお許し下されば…ぜひ私もお会いしたいです。ここまであなたを立派に育ててくれたお母さまに…」
「ありがとうございます。母に聞いてみます」
…あんなに…あんなに混乱していたのに…
もう普通に話せてる自分に驚いてる。
それも全部、麻依のおかげなんだよな。
本当にすごい女性(ひと)だよね。