太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
「楽しかったぁ!抽象画って間近で見ると迫力あるね!」

「…麻依、いろいろありがとう」

「んー?」

「蓑部さんとのこととか…。俺じゃ連絡先を聞くとかご好意に甘えるなんてできなかったよ」

「だよね」

「…わかってた?」

「んー、わかってたっていうか、そういうものだよね。私もそうだったから」

「何かあったの?」

「そんな大層なことじゃないけどね。前にお父さんの事で来た時にね、帰り際にお母さんに交通費を渡されたの。私も稼いでるんだからいいよ、ってそれを断ったら、戸田さんに『受け取るのも親孝行ですよ』って言われてね。それで、好意を受け取るのは図々しいんじゃなくて、相手にも喜んで貰えることなんだな、って改めて思うようになったの」

…なるほど。
俺もその考え方ができるようになろう。

…てか、戸田?
なんか面白くねぇ…

「もぉ…戸田さんの名前が出たからって…」

「え、何で」バレた?

「くーち」
麻依が人差し指で口を指す。

「あ…」
ヤバいな、もう癖か、コレは。

「だから、ちゅうしたくなるから…ね?機嫌直して?」

赤い顔で覗き込まれた上、小声で囁かれた俺は、それだけで浮かれてしまった。

「ん、麻依のその顔見たら機嫌直った」
マジで。

「あはっ、単純」

「なっ、それ言う?」
頭、わしゃわしゃしてやる。

「やだー、ぐちゃぐちゃになっちゃうって、もうごめんってば」

「やだ、許さねぇ」

とかなんとか言ってイチャイチャすんのが堪らなく楽しくて。

しばしそれを楽しんだ後、腕時計で時間を確認した。

「そろそろチェックインしようか」




……
…………

タクシーがホテルに着くと、麻依がその建物を見上げた。

ふ、口が開いたまま固まってる。


『ラピスニューロイヤルホテル』

国内外にあるラピスホテル系列の中でも最高ランクのホテル。


「ちょ…こんなすごいとこだなんて聞いてない…」

「言ってないからね。驚いた?」

「うっ、うん。ビックリしてる…あ!こんな格好で入ってもいいのかな…」

「ハハッ、そんなこと気にしなくて大丈夫だよ。さ、行こうか」

チェックインの手続きをして案内された部屋に入ると、麻依がまた固まった。



――スイートルーム


正面に見える壁の、腰の高さから上一面がガラス張りで、高層階にあるこの部屋からの眺望は素晴らしい。
この分だと夜景もすごそうだな。


…にしても、窓の外や部屋を見回して素直に「うわぁ、すごい!すごい!」と驚いてくれる麻依が可愛いすぎる。


「荷物置いたら専用ラウンジで少し休憩して、それから買い物行こうか」

「え、え、ちょっと待って、何でこんなすごいとこ?え?何で?聞いてないよ?」

「うん、言ってないからね」

「言ってくれたらもっとホテルに見合うオシャレしてきたのに…」

「麻依はいつものスタイルで充分見合ってるよ」

「ホント?変じゃない?」

「うん、可愛すぎるくらい」


そう…可愛すぎる…

だから抱きしめた。


「諒?」

「やっと麻依をぎゅってできた…はー…長かった…」

首元に顔を寄せて、甘く漂う麻依の香りを吸い込む。

「んー…麻依の匂い…たまんね…」

そしたらさ、したくなるじゃん。キス。

「麻依…」

顔を上げて俺を見る麻依の、無防備に開いた唇に優しく口付ける。

もちろんそれだけで終われるワケがなくて…
気付いたら麻依に胸を叩かれてた。

「っ諒…激しすぎるってば…っハァ…ハァ…」

「ゴメン…つい我を忘れて…」

がっついてしまった…
今日は余裕のある大人の男でいたいのに…
ちょっと自己嫌悪。


なのに。

「それだけ求めててくれたってことだもんね、ふふっ、嬉しい」

そう言って俺を抱きしめてくれる麻依が愛しくて。

「まーいー…大好きー」ぎゅう…

あーあ、どこが大人の男だよ…




気を取り直した俺は、麻依と〝スイート専用ラウンジでティータイム〞という慣れない上質なひとときを楽しんでからホテルを出た。


まずは麻依が【ink:white】(インクホワイト)の財布が見たいと言うので銀座の店舗へ。

買うものが決まって会計に向かった麻依を追うと、麻依が財布を出す前に俺がすかさず「これで」と店員にクレジットカードを差し出した。

え?って顔で俺を見る麻依に、にっこり笑顔で返すと、それで麻依もわかってくれた。

もう…って苦笑気味の顔だけど「ありがとう」と言ってくれて俺も嬉しくなる。

あ、そっか。コレか。
好意を受け入れて貰えて嬉しいってこと。

当たり前にやってたけど、立場が違うと気付かないもんだな。


その後は麻依が愛用してる化粧品のショップに行ったり、有名なパンケーキのお店でお茶したりと、とても楽しく幸せな時間を過ごした。

途中、2人で歩いてる時に、フリーペーパーの〝街のお似合いカップル〞みたいなコーナーに俺達の写真を載せたいのですが、と声をかけられたが遠慮しておいた。

理由は一つ。
こんな大都会で、麻依を他の男の目に触れさせてたまるかっての。

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