太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
「あの、お客様…」
あ、さっきの…北見さん。
やば、涙目がバレちゃう。
「うちのスタッフが大変申し訳ございません!すぐに上司に報告しましたので、もう少々お待ち頂けますでしょうか」
「え…あ、はい…でも彼も同意してのことですから…」
「いえ、いくら知り合いでもスタッフとして許される態度ではございませんので」
それでは失礼します、と受付に戻った彼女へ男性が近付いた。
「北見さん、ありがとう。見てきたけどアレはひどいな…。アイツはもうクビだな。…それでお相手の方は?」
「はい、専務」
視線をそらし素知らぬふりをしていたけど、何となく聞こえてしまった。
…あの人、問題児だったのかな…
「お客様、当社のスタッフが大変失礼いたしました」
専務と呼ばれた彼が私に話しかけた。
「え……麻依?」
「幸成(ゆきなり)くん…」
「専務のお知り合いの方でしたか?」
「あっあぁ、千紗の同級生なんだ。俺も昔から知ってて」
「そうでしたか。…あ、部長」
「北見さん、連絡ありがとね。専務もありがと…うぇっ!? 麻依 !?…まさか山下のって、麻依の…?」
「ん……千紗、ごめんね、何だか話が大きくなってしまったみたいで…」
「何言ってんの、これは麻依が謝ることじゃないの。本当に申し訳ないことをしたわ……もう山下は辞めてもらう。人事部長もろとも」
「そうだな、俺からも社長に言っとく。証拠もあるしな」
「うん、よろしく。…じゃあ私は社長に連絡する。兄貴は山下をお願い。こっちの役員室に呼び出してくれる?」
「了解」
千紗は「麻依、ごめんね、しっかりケリつけるから!」と言ってどこかへ走って行ってしまった。
…何だかほんとに大ごとになってしまった様な…
「アイツ、麻依のことになると熱くなるのは変わんないな。あぁ、麻依はここで待っててくれる?彼氏、連れてくるから」
「うん……でも…私がいなくてもいいのなら、もう一人で帰っちゃおっかなー…って思い始めてて。んー、どうしようかなー、なんて。あはは」
泣きそうな気持ちを読まれたくなくて、明るく言って作り笑いをしたんだけど…
そんな私を見て硬い表情になった幸成くんにはバレちゃったのかも。
「…じゃあそうする?俺か千紗が送るよ」
「や、それは悪いから…えっと、タクシーで帰ろうかな…」
「…わかった。北見さん、タクシー1台呼んでくれるかな」
「かしこまりました。すみません麻依さん、もう少しお待ちください」
「こちらこそ、わざわざすみません」
ずっと傍らにいた北見さんは一礼して、受付とは違う方へ向かった。
…なんか…私のせいでとても面倒なことになっちゃったな…
いいのかな…大丈夫かな…
先が見えなくて…怖い…
漠然と不安になっていると、スッと幸成くんが私の前に座った。
「麻依…久しぶり」
「幸成くん…そうだね、久しぶりだね」
「麻依…あの時は本当にごめん。若かったとはいえ麻依の気持ちもわかってやれずに…勝手な真似ばかりして…」
「そんな!昔の話だし、もう気にしてないよ」
ほんとにすっかり忘れてたし。
「ありがとう。それにしても…ふ…一段と綺麗になったね。でも素直で優しいところは変わらないよな」
…そんな優しい顔と懐かしい声で言わないで…
一生懸命、気を張っているのに…視界が滲んでしまう…
そして、涙の膜が耐えきれなくなり、ホロッと頬を伝った。
「あっごめん、何か気に障ったかな…ごめんな」
優しいところは幸成くんも変わらないね。
「ううん…そんな優しいことを言われたら張ってた気が緩んじゃって…えへへ、ごめんね、嫌な気持ちになったわけじゃないから大丈夫」
心配させたことが申し訳なくて笑顔で返そうと思ったのに泣き笑いみたいになっちゃった。
余計ヘンだよね…
「はー…この立場じゃなかったら秒で抱きしめてるわ…」
ぼそっ…て聞こえた言葉にドキリとしたけど、それには気付かないフリをした。
「…何か言った…?ごめんね、よく聞こえなくて…」
「いや独り言。あっ、タクシーが来たかな?」
幸成くんが顔を向けた先に、北見さんがこちらに向かって来るのが見えた。
「専務、タクシーはあと5分位で到着します」
「そう、ありがとう」
すると、キョロキョロと回りを見渡して人がいないのを確認した北見さんが、泣きそうな顔をした。
「私…私…山下が許せません!今までも何回もそういう場に出くわしましたけど、今日のアレは…本っ当に思い出しただけでムカッ腹が立ちます!あのクソ女!って感じです。私は麻依さんの味方ですから!」
泣きそうだった割に似つかわしくない言葉を発するものだから、少しおかしくて笑ってしまった。
「ふふふっ、ありがとうございます、北見さん。そのお心がとても嬉しいです」
「北見さんはウチの有能なウェディングプランナーなんだよ、麻依」
「そうなんですね!今度は本館の方に行こうと思いますが、北見さんは二番館のご担当ですか?」
「いえ、普段は本館におります。今日はフェアなのでお手伝いでこちらに来ております。もし本館にお越し頂ける様でしたら、ぜひご案内させてください!」
「ありがとうございます。ではその時は千紗に連絡して北見さんにお願いしたいとお話しさせてもらいますね」
「ありがとうございます!光栄です!…あ、タクシー来たみたいですね」
幸成くんが先にタクシーに向かい、私は後から北見さんと一緒に外へ出た。
「北見さん、幸成くん、ありがとうございました。それじゃあまた」
「あぁ、こっちのことは任せて、今日はゆっくりしなよ」
幸成くんが小さく手を上げて見送ってくれた。