太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
ブライダルフェアに行こう!/side麻依
「あっ諒、遅かったね。いつの間に幸成さんと仲良くなったの?」
「ふ、内緒」
穏やかな笑顔。
ふふ、いいお話ができたのかな。
「ん、じゃあ聞かないでおくね」
男同士のなんとか、ってのかもしれないし。
「北見さんの他に私もくっついてくけど、いいかしら?」
千紗が諒に話しかけた。
さっき諒が幸成くんと話してた間におばさまは社長室へ戻られて、残った千紗と北見さんとで話してたら、千紗も私達のプランナーに就きたいと言ってくれたんだ。
諒に「プランナー2人体制でしてくれるって言ってくれてるんだけど…」と私が言葉を足すと、笑顔で「もちろんお願いするよ。親友に力添えしてもらえるなんてよかったね!」って言ってくれた。
「ありがとう、諒。じゃあ千紗もご同行お願いします」
「かしこまりぃ!」
「部長、麻依さんが一緒だと雰囲気違いますね」
「あったり前よー!麻依とは中学から大学までずっと一緒だったんだから。もう姉妹みたいなもんよ。ね?」
千紗が私の腕を組んでくる。
「ふふっ、そうだね。千紗がお姉ちゃんだよね」
「そーそー。でもたまに麻依がお母さんになってさ」
「それ、わかる気がする」
「諒くん、わかってくれる?」
「うん、お母さんていうかマリア様って言うか。神って時もあるね」
「そう!そうなの!」
「千紗も諒も大袈裟だよ。何、神って」
「うふふ、私でもわかる気がしますよ」
「北見さんまでー」
「よし、じゃあここを今日の本拠地としましょ。色々見て回るから、コートとか大きな荷物はこのカゴを使ってちょうだい。あ、貴重品は持ち歩いてね!」
千紗が、ブライダルフェア会場にセッティングされている丸テーブルの椅子を「どうぞ」と引いてくれた。
「ありがとう、ふふっ。さすが千紗。板についてるね、かっこいい」
4人がテーブルにつくと、北見さんが「では」と進行を始めた。
「この度は、フルール ブライダルガーデン 本館をご指名頂き、誠にありがとうございます。佐伯様、羽倉様の挙式と披露宴を担当いたします、ウェディングプランナーの北見 双葉(きたみ ふたば)と申します。お二人の幸せ溢れるお式を楽しみに、私達スタッフ一同、心を込めてお仕えさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
佐伯様、羽倉様かぁ…
「なんか…ホントに結婚式するんだね、って実感が…」
「ふ、俺もそう思ってたとこ。ちょっとドキドキしてきた。あぁ、嬉しいドキドキな」
諒が胸に手を当ててる。
ふふっ、かわいい。
「あはは、私もドキドキしてるよ、ほら。触ってみて?」
「…何で手首の脈?普通こーゆう時にさわるのは胸じゃない?」
「ドキドキのリズムは心臓も手首も一緒でしょ?」
「…確かに脈はわかるけど…」
「だって厚着してる服の上からだとわからないよ?それに…ここで服の中に手を突っ込めないでしょ?」
「う…そうだけど…ちょっとくらい…」
「ダメったらダーメ。それは後でね」
「ん……後でね…」
「ふふっ、部長、本当にかわいらしい、素敵なお二人ですね」
「そうだね。ふふふ、こんな幸せそうな麻依、初めて見たよ」
「うん。こんな幸せな気持ちは初めてだよ」
「フ、俺は麻依と出逢えてからずっと幸せが続いてて、毎日どんどん大きくなっていってる。宇宙の膨張みたいにね」
宇宙の膨張…
スケールの大きな例えだけど…
「…それ、どこかで収縮に変わ「るわけないじゃん」
あっ、即答。
「部長…すごいですね、佐伯さん。ここまでの方、私、初めてお会いします…」
「うん…私も…。てゆーか麻依は幸せ者だね!」
「いや、隣に麻依がいてくれてる俺の方が幸せ者ですから、フッ」
「……」
「……」
「ほら諒、2人を黙らせちゃったよ。あっ、ごめんね、続けてください」
「…ぷ、あははは!おもしろいって言ったら失礼だけど、いいね、諒くん。サイコーだわ」
「うふふふ、そうですね。甘いのに胸やけしない感じですよね、ふふふ」
「もぅ諒ってばノロけすぎだって」
「え?どこがノロけ?」
ん?って、ほんとにわざと惚気てるワケじゃないんだ…
「……うん、じゃあノロけてないってことで、進めてください」
「ふふふ、はい。それでは…まずこちらにご記入頂いてよろしいですか?」
「はい。あ、施行台帳みたいなものだね」
「そうだね」
二人でさらっと目を通すと、諒が先にペンを持った。
仕事上、こういったものに書き込むのは慣れているとはいえ、プライベートでも嫌がらずに書いてくれるから、そういうところも紳士的でいいな、って思う。
それに字もきれいなんだよね。
書かれた勤め先を見た北見さん。
「あのソレイユさんの支配人をされてるんですね。私、少し前に松岡っていう親戚の葬儀で使わせてもらったんです。その時は眼鏡をかけた男性の方…上原さん…だったかな?その方にお世話して頂きました。その方も落ちついた素敵な方でしたし、フロントの女性の方達もほんとお綺麗で、ソレイユさんは美形の方しかいらっしゃらないのかと思いました。ふふふ」
あぁ松岡様、うん、上原さんが担当してたねーなんて考えてたら。
「だってさ、麻依」
諒がニヤけて言う。
「麻依さんのお知り合いで…?」
「そのフロント、2人いましたよね?」
「はい」
「その一人が麻依ですよ」
「えぇっ!それは気付かずに失礼いたしました!」
「イエイエ」
気恥ずかしくて手でパタパタ扇いじゃう。
「あ!綺麗な方の方ですね。もう一人の方はパッツン前髪の可愛らしい方でしたし。確か…髪をアップにされていたと思うんですが…下ろされて前髪も違うと雰囲気が変わりますね」
「仕事の時はいつもあの髪で…」
「そうでしたかぁ…最初の受付の時にどこかでお見かけしたような気がしてたんですけど思い出せなくて。そうでしたかぁ。本当にお綺麗な方だと思ってたんですよ」
「やっぱり麻依は見られてるんだね。はい次どうぞ」
諒にペンを渡されたので、私も記入する。
「麻依を見る男が多くて、俺はヤキモキしてますけどね」
「諒を見る女性も多いんだから。しかも、中高校生からおばあちゃんまで年代問わずだしね」
せっせと書きながら反論(?)する。
「昨年の6月に大きな企業の社葬をした時があったんですが」
「ライト建設でしょ?」
「千紗、知ってるの?」
「うん、知り合いがいてね」
「その社葬後にライト建設で麻依のファンクラブができたそうでね。俺は最近知ったんですけど、もうそれ聞いてビックリですよ」
「…有名人並ですね、麻依さん…すごい…」
「麻依は知ってたの?ファンクラブ」
「知らない知らない、私も最近聞いたの。ほんと驚いたのなんのって……よし、書けた」
ペンと台帳を北見さんにお返しすると、千紗と北見さんが台帳に目を通していく。
「諒くんと麻依は職場恋愛になるんだよね」
「そうですね」
諒が私を見て答えてくれるから私も笑顔を返すの。
「…えっ?交際始められたのは昨年の夏からなんですか!?」
「はい、実は付き合ってまだ半年くらいです」
「そうなの!?」
「うん、そうだけど…結婚まで早すぎかなぁ?」
「そうじゃなくて、2人がすごく馴染んでて、長年の付き合いに見えたからさ」
「はい、私もそう思いまして」
「じゃあ前から知り合いだったんだ?」
「俺がソレイユに来たのは昨年の3月で、それで初めて麻依と出逢いました」
「え?初めて会ってから1年も経ってないってこと!?」
「あ……そうだね、改めて考えたらまだそのくらいなんだね、ふふっ」
「うん。まだ付き合いたてで麻依が大好きでどうしようもないくらいな感じもするのに、何年も一緒にいるみたいな安心感もあるんだよね」
「そうなんですね…それはお二人がソウルメイトな気がしてきました、うふふ」
「あー、それ思った!2人の温度とか滲み出る雰囲気が同じっぽいよね」
「「ソウルメイト?」」
あ、諒とハモっちゃった。
「うん、聞いたことない?」
「んー、単語くらいは。でも詳しい意味は知らないかな」
「俺も同じく」
「簡単に言えば、魂で繋がってる相手、ってことかな。検索するとサイトによって細かい説明が違ってたりはするけど、前世で繋がってたりとか、初めて会った時から気になったり、一緒にいると安心できたり、人生を変えてくれる存在だったり、あとさっき諒くんが言ってた『何年も一緒にいる感じがする』とかね。とにかく〝この人だけは超特別〞って感じる人なんだろうね」
「なるほど。それでいくと麻依はソウルメイトで間違いないな」
「あは、そうだね。私も諒がそうなんだと思った」
「本人同士が思うことは恋人同士ならよくあるけど、周りから見て〝この人達はソウルメイトだな〞って思うことはまずないもんね」
「確かにそうですよね。それを思わせるお二人ってすごいですね」
諒と顔を見合わせて笑う。
ソウルメイトかぁ…
ふふふ、そうだったら嬉しいなぁ。
「では…お式の時期とかってもうお考えでしたか?」
「6月にしようかと」
「ジューンブライドだし、いい時期だね」
「それもあるんですが、俺の誕生日が5月の半ばなんで、誕生日が来てからがいいなと。そしたら麻依と同じ年になってるんで」
「諒くんて、学年は麻依の1つ下なんだね。でも全然わからないよね、同い年って言われても、諒くんが年上って言われても、どっちも違和感ないわ」
「だってさ、麻依」
優しい笑顔を向けてくれる。
「そっかぁ、ふふっよかったぁ」
「なに、麻依は歳を気にしてたの?」
「まぁちょっとね…」
「ぜーんぜん平気よぉ!見た目も中身もお似合いの2人だから」
「ほら、親友からもそう言われてるんだから大丈夫だよ」
確かに…頭をポンポンされて安心しちゃうとこは、諒が年上みたいだね。
「部長…お二人のウェディング姿、うちのポスターにしたいですね!」
「あっ、それいいね!CMとか絶対効果あるわー。もーみんなウットリだよねー」
「なっ、千紗なに言ってるの、そんな大それたこと無理だよ」
「えー、諒くんはいいよね?」
「絶!対!ダメ!です!」
「えっ!? 何で!?」
「そんなの、ドレス姿なんていう超絶綺麗な麻依を他の男に見せるなんて言語道断ですよ」
「…あぁ……そーゆーことね…」
「なるほど、確かに諒さんなら言いそうでしたね…」
「えーでも諦めきれないわー。とりあえず写真ができてから考えよ」
「そうですね、部長」
「いやいやいや、そこは進めなくていいからさ…」
「そうですよ、ドレス姿の麻依を見せるんだから、披露宴だって男は呼びたくないくらいなのに。いや、マジでドレス姿見るのは俺だけでよくない?」
「諒、でもそれじゃあ披露宴の意味なくなるよ?」
あ、ムゥの口になった。
「諒…ほらー」
人差し指で唇をツンツンする。
ちゅっ
あっ!
人差し指にキスされた!
「もぅっ、こんなとこで!」
って怒りながら顔が火照ってしまう…
「部長…私、すごくお二人に萌えるんですけど…」
「わかる。私も初めて『萌え』が何たるかを理解したわ」
「えっと、それでは挙式と披露宴は6月のご予定もいうことで…お日にちはどうされますか?あとそうですね―――」
…と、こんな感じで初めての相談は遅々として進まなかったのだけど、打ち合わせを重ねる毎に私達(特に諒の扱い)に慣れてきた千紗と北見さんにより、スムーズに進むようになっていった。