太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
支配人がそこに割って入ろうとしたが、それを止めて私が男性に声をかけた。

「お話しのところ失礼いたします。私はこちらの松島の上司の羽倉と申します。恐れ入りますが、私が応対を代わらせて頂いてもよろしいでしょうか」

「あぁ、この人の上の人か。じゃあそうしてくれ」

「ありがとうございます。それではこちらへお掛けになって下さい」

ソファのあるロビーに誘導し、用意できる飲み物を提示し選んでもらう。

飲み物の用意はひよりんにお願いして、支配人に持ってきてもらうように指示した。
今はまだひよりんを会わせない方がいいと思うから。

支配人が飲み物を持って行く間に、ひよりんからお客様の言い分を簡単に聞いて、すぐさま戻った。

そして、こちらからその話を振り、お客様が話し出しやすい空気を作る。

このお客様〈富山(とやま)様という〉は、今日のお通夜の方(お亡くなりになられた方)と旧知の仲だそうで、明日の葬儀にはどうしても来られず、今日のお通夜も最後まで居られないため、早くホールに来られたそうだ。

それで、連絡を受けて急いで来たが、会社から直接来たので喪服も数珠も準備できなかった。

だから、せめて数珠を貸してほしいとのことだった。

それをフロントの人(ひよりん)に言ったところ「ソレイユでは数珠を貸し出していない」ということを言われたが、他のホールでは借りたことがあったので、ここは一体どういうつもりだ、と気分を害された模様。

富山様の話す内容を遮ることなく相づちをうちながら聞き、一通り話し終えた富山様が一息ついてコーヒーをすすったところで、こちらが話を切り出す。

「富山様、ご期待に添えず申し訳ございません。現在、太陽葬祭では全てのホールで数珠の貸し出しを取り止めております。…以前は弊社も含め葬儀式場で貸し出していた事もありました。ですが残念な事に弊社では返却されない事もありまして、貸し出しを取り止めるに至りました。そして実はもう一つ、貸し出しを行わない大きな理由があるんです」

富山様が、ん?と呟く。

「数珠は念珠ともいいますし、また持ち主の魂の宿る分身だともいわれています。ですので、家族や友人でも貸し借りはよろしくなく、人の物を借りるなら、数珠なしで参列する方が良いとも申します」

「ほぅ…そういうものかね」

「はい。それに、もしお持ちでなくてもマナー違反ではございません。大事なのは故人を悼んで参列されることなんです」

「うむ…」

「当ホールでも数珠の販売をしております。どれも高品質で、自信を持ってお勧めできるお品を取り揃えておりますので、まだご自分の数珠をお持ちでないお客様には、お声掛けさせてもらっております。また、上質なものからお手頃な品物まで多数取り揃えているお店も近くにございまして、既にご愛用されている数珠をお持ちの方には、こちらのお店もご紹介しております」

座ったまま一礼し、話を終えた。
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