太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
あぁぁ…要らないことまで言い過ぎたかも…
と、言葉少なに聞いていた富山様の様子に不安が過る。
すると。
「…そうでしたか、そんな理由があったとは知りませんでした。いや、これは大人げなかった」
と富山様が後ろ頭を掻いて言う。
「いや…固定概念とは実に恐ろしいものだね。数珠を持つ本当の意味を知らずに、持っている事が大事なのだと思い込んでいたよ」
あぁ、ご理解いただけた…ホッ。
「いえ、ほとんどの方がそう思っていらっしゃるのではないでしょうか。持っていないのは失礼だと。でも本当に大事なのはお気持ちですから」
「全くその通りだね…この歳になって初めて教えられた気分だよ」
「…富山様、数珠はどうなされますか?よろしければ近くのお店をご紹介いたしますが…」
「せっかくだから、ここで数珠を買わせてもらおうか。うちにあるのもその場凌ぎで急いで買った程度の物だからね。1つ位は良い物を持っておかないとなぁ」
「ありがとうございます。品質についてはどれも自信を持ってお勧めできるものばかりですので、どうぞ見てみて下さい」
フロントに来た富山様に、ひよりんがショーケースから男性向けの数珠をいくつも出す。
「富山様、先程は大変失礼いたしました」
ひよりんが深く礼をする。
「いや、私の方こそ失礼な態度で申し訳なかったね。あなたは間違っていなかったのに」
富山様もまた深く一礼。
「材質も色々あるんですね。どれも素敵な物ばかりだなぁ、どう選ぶのがいいんだろうなあ」
顎に手をやり、うぅむと唸る。
「そうですね、一番は『これ!』と思われたものよろしいかと。やはり長く使われるものですし、それにこれもご縁ですから、ご縁のあるものには自然と惹かれるかと…」
「縁か…なるほど……私はこれとこれが気になっていてね…どちらを愛用したいか…」
黒檀のものと迷った末、ブラックオニキスの数珠を購入して下さった。
「とても気持ちの良い買い物ができたよ。これであいつと快くお別れができる」
「そのように仰っていただき、私達も嬉しいです」
ひよりんに顔を向けると「ハイ」と笑顔で頷いた。
そこへちょうどフロントに戻ってきた支配人に声をかけた。
「あっ支配人、今日お通夜の山本様のお客様ですので、ご案内をお願いできますか」
富山さんにも一声かけておく。
「富山様、こちら山本様の担当をします佐伯です」
私の言葉を受けて支配人が続けた。
「佐伯と申します。山本様はあと30分位で来られますが、2階の控室前のロビーでお待ちになりますか?」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
「かしこまりました。それではご案内いたします」
「羽倉さん、松島さん、ありがとう」
軽く手を上げて会釈をする富山様に私達は2人揃って一礼した。