太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
支配人が富山様をご案内して10分近く。
今井さんから「これから自宅を出てソレイユに向かう」と連絡が入った。


「ひよりん、ちょっと支配人探して伝えてくるね」

「はい、こっちも準備してますねッ」

「ありがと、お願いね」


ロビーを抜けて階段を上がる。

どこかな…

…あれ、まだ富山様と話してたんだ。


穏やかに会話する2人に近づき、支配人に山本様がこちらに向かっている旨を伝えると、支配人は一言挨拶し、フロントへ向かった。


「山本様はあと20分位でお着きになられる予定ですので、もうしばらくお待ち下さい。それでは失礼致します」

私も準備もあるし…と、富山様に一礼してその場を去ろうとしたが、「あぁ、羽倉さん」と呼び止められた。

「はい」
富山様を見ると、とてもにこやかな顔だ。

「今、支配人の佐伯さんにも話していたんだが、私はこのホールが気に入ったよ。建物が新しい事もそうだが、あなた達の対応に非常に感銘を受けた。何かあればすぐにこちらに相談させてもらうよ」
そう言い、私に名刺を差し出した。

株式会社ライト建設、って隣の市に本社のある大企業。
そこの専務さんでしたか…

「ありがとうございます。その様に仰って頂き、本当に嬉しく思います。葬儀の疑問点や些細な事でも、あ!数珠の修理も承りますので、ぜひご相談ください」

頼りにして頂けることが嬉しくて、数珠の修理まで言ってしまった。

ハハハ、と笑った富山様が言う。
「佐伯さんと同じなんだね」

「?」
少しだけ首を傾げた私に、言葉を続ける。

「まぁ皆が皆ではないが…私くらいの立場が相談したいと言うと、大きな仕事を貰えるのではと期待するみたいでね。目の色が変わったり媚をうってきたり…まぁ仕事をしている以上、そうなるのもわかるんだがね」

「そうなんですね…」

「だから、羽倉さんと佐伯さんの言葉を聞いて、久しぶりにそういうしがらみを感じないのが嬉しくなってね、ありがとう」

「いえ…私はお客様の心のお役に立ちたいと思っています。私だけではなく、佐伯も他のスタッフも皆そう考えていると思います。ですので、富山様のお言葉が本当に嬉しく、また励みになります」

「そうですか」

好好爺然の笑みを浮かべる富山様。


ふと、自分の仕事もあることを思い出した。
「すみません、私もそろそろお迎えする準備に参りますね」

「あぁ、忙しいのにすまなかったね」

「いえ、富山様とお話ができて嬉しかったです、では失礼します」

再度一礼し、フロントへ戻った。

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