太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
正義の味方は、愉快な仲間達!
その背の高い短髪の男が一歩足を進める。
…さっき店内で見たホストっぽい人達の一人か…?
濃いグレーのサングラスを外した男は切れ長の鋭い目をしていて、なかなか整った顔立ちをしていた。
「ごめんなさい、今はプライベートなので関係のない方は申し訳ないけど…」
よくある事なのか、月乃さんは作り笑顔のままやんわりと拒否の態度を見せた。
…が、それを無視した彼の発言は思いもよらぬものだった。
「昨日から聞いてれば…相当悪どいことしてるよなぁ、あんた。ハハッ」
え?
「昨日…?何の話かしら。人違いじゃない?」
「昨夜ホテルのバーで話した事をもう忘れたのか?」
何でそれを……この男、何者だ!?
月乃さんもこの男にただならぬものを感じたのか、作り笑顔を崩し、眉をひそめた。
「…あなたには関係ないでしょ」
「いや、それが関係なくもねぇんだよ、こちらのお三方とな」
「え?」
俺達と関係なくない…?
「それに、俺もそこの男と同業者でね」
「…ナニ?」
今度は記者の男が顔をしかめた。
「〝週刊パスカル〞って知ってるよな、当然」
「えっ…」
「…あのパスカル…?」
それって確か…芸能人や政治家の悪事をすっぱ抜くって有名な週刊誌…
「あぁ、俺はその週刊パスカルのライターの手嶋(てしま)ってんだ。悪いけど昨夜の二人の話は聞かせてもらったよ。さっきここでしてた話もな」
イヤホンらしき物を耳から外しながら、そう彼は言った。
「はぁ!?…昨夜のって…どうして…」
「あんた、諒を手に入れるために必死になるのは勝手だけど、ちょっとやり方が汚なすぎた様だな。…けどまぁ逆に言えばそれは俺にとっては願ってもない格好のネタだけどな」
「なっ…」
「いいんだぜ?そいつに書かせても。したら俺も書いてやるから。あんたがやらかした犯罪をな」
「アタシは何も悪い事はしてないわ!それを言うなら結婚詐欺師の諒クンじゃない!」
「悪い事はしていない?…フッ、わからないなら教えてやるよ。…あんたのやった事は脅迫罪にあたるんだぜ」
「は…?」
「〝訴えられたくなければ、もしくは、記事にされたくなければ、奥さんと別れて自分と結婚しろ〞…これはどこからどう見ても脅迫だよな」
「えっ…」
「それとな。〝『迎えに行く』と言われたのに他の女と結婚していた〞…これでは詐欺罪にはならねぇんだよ」
「はぁ!? だってプロポーズされたのよ!? 結婚の約束でしょ!? だからアタシは待ってたの!騙されたのよ!ほら、結婚詐欺じゃないの!」
「いいか、よく聞けよ。日本に〝結婚詐欺罪〞ってものはない。もし立件するならば〝詐欺罪〞だ」
「……?」
「『刑法第246条第1項、人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する』…これが詐欺罪」
「…だから何よ」
「結婚詐欺の定義ってのは『結婚する気がないのに結婚する様に装い、金品や財産を奪う行為』だ。…つまり、金や財産を奪われてなければ詐欺罪にはあたらない、ってことだよ」
「……えっ…ウソ…」
俺達はこの会話に入れず、というかこの手嶋さんが現れた意図も分からず、ただただ見ているしかなかった。