太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
うぅ、やっぱ寒いわ~、とフロント事務所の奥の更衣室でぼやいていると、ピピッという音と共にカチャリとドアが開いた。

「あっ、麻依(まい)先輩!おはようございます!早いですね!」

「おはよう、ひよりん。今日も寒いね~」
脱いだコートをロッカーのハンガーに掛けながら、ひよりんの方に振り向く。


私が『ひよりん』と呼ぶ彼女は、いつも明るい笑顔を絶やさない癒し系女子だ。

「ホント寒くてお布団から出られなくてぇ。でも今日は特別な朝礼だし、早く行かなきゃと思って気合い入れて起きたんですよぉ!」
手をグーにして胸元に寄せる仕草がまたとても可愛らしい。


麻依先輩と呼ばれた私は…
羽倉 麻依(はくら まい)。
『フューネラルホール ソレイユ』のフロントで働く、28歳。
この歳にして旦那どころか彼氏もいない。

大学を卒業後、県内では葬祭大手の〔株式会社 太陽葬祭〕に入社して早6年。


この『フューネラルホール ソレイユ』は〔太陽葬祭〕の第三支社(通称:3社)が管轄する葬祭ホールの一つで〝フューネラルシーンに新しい風を〞という、森田社長のチャレンジ精神からできた、オープンしてまだ3年目という新しいホール。

〝とにかく今までにない葬祭ホールを作る!〞と意気込んだ社長のこだわりがぎっちり詰まったホールなのだ。

オープン以来ご好評を頂いており、利用件数も右肩上がりで増えてきてはいるのだけど、一つだけ悩みどころがある。
それがホールの名称。

〝フューネラル〞(funeral)とは〝葬儀〞を意味する英語なのだけど、ここのホール名を正しく呼んで下さるお客様が未だ少ないことから、まだ馴染みが薄いと思われるこの単語をホール名に入れたのは時代を先取りしすぎたか…と社長は肩を落としている。

ちなみに、巷では葬儀式場といえば〈○○セレモニー〉とか〈セレモニーホール○○〉といった名称が多く、かくいう太陽葬祭の葬祭ホールも、ソレイユ以外は全て〈セレモホール○○〉なんだけどね。

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