太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
そして準備万端で迎えた社葬当日。
だがこういう時に限って、トラブルは起きる。

ライト建設にとって最重要取引先の供花を届ける手筈の花屋の車が事故渋滞で身動きが取れず、搬入時間に間に合わなさそうだと、富山さんから俺に連絡が入った。

その花屋はここから60km離れたT市にあり、これから同じ供花を用意して車を走らせるにしても間に合わない。

ということは別の花屋に依頼しないと…

すぐさまソレイユが提携している生花店にも聞いてみたが、社葬の準備で慌ただしく、また他のホールの施行も入っているため、用意が難しいとのことだった。

何とか…どこかに頼めないか…

やや焦る俺のところへ羽倉さんが「すみませーん、ちょっといいですかー聞きたいことがー」と何かの確認にやってきた。

その声にトクリと胸がなる。

何でだろう、顔を見ただけで焦る気が少し落ち着いた。

「あれ、ここのお花、まだ来てないんですか?確か一番の取引先でしたよね」
壁際にズラリと並ぶ供花の、祭壇近くに数基分空いたスペースを見て言う。

「あ、えぇ…」

「…何かあったんですか?」

「え?」

「何だか深刻な顔に見えたので…」

何でバレたんだろ、そんなに顔に出てたのか?

「…実は…」
フロントにも伝える必要があるし、事の次第を話した。

羽倉さんが手を顎にやり、少し考える素振りを見せた後、詳しく聞かせてほしいと言われたので、フロントに関係者を集め、羽倉さんや上原さん達に改めて状況を話した。

供花のカタログを片手にメモを取っていた羽倉さんが「ちょっと失礼しますね」と自分のスマホを取り出し、トントンとタップする。

「…もしもし、拓也?今仕事だよね、ちょっといいかな」

…タクヤ?男?名前で呼ぶとかどんな関係?

仕事の一大事だというのに、先に出た疑問がそれとか…自分が情けない…

こんな浮わついてる俺とは対照的に、羽倉さんは真剣な面持ちで話を進めている。

「…ほんと?できる?…ありがとう!助かる!…うん、わかった、詳細は会社の方にFAXするから、そしたらまた電話するね、うん、アヤにもよろしく」

…ふぅ、と一息吐いた羽倉さんが、俺に笑顔を向けた。

「できます!搬入時間ギリギリかもですが、同様の供花を用意できます」

フロントにいた皆がホッとした表情に変わる。

「羽倉さん、ありがとうございます!…ではこちらも急いで詳細の内容を詰めて連絡しましょう」

その後、俺も花屋の拓也さんと連絡を取り合いながら搬入も無事に済み、事なきを得た。

その搬入時には富山さんもホールに到着していて、拓也さんや一緒に来たお店の方の手を握りながら「ありがとう、ありがとう、あなた方のお陰で本当に助かったよ、ありがとう!」と、これでもかというくらい何度も謝辞を述べていた。

その後、富山さんと名刺交換した拓也さんは「この度はご用命いただきありがとうございました」と爽やかな笑顔と一礼で俺達に挨拶し、羽倉さんには「またな、頑張れよ」と頭をポンポンと叩いて帰っていった。
それを笑顔で手を振り見送る羽倉さん…

俺は搬入に来た最初に名刺交換させてもらったが、拓也さんは『フラワーショップ ネージュブロンシュ』の社長さん。
フルネームは白井拓也さんといい、この短い時間でわかったことは、見た目も性格も高見くんをちょっと大人にした感じで、一言でいえば…いい男、ってことだ。

羽倉さんの知り合いは拓也さんといい福田さんといい、イケメンばっかりだな…

こんな時なのに…俺は羽倉さんと拓也さんとの関係にモヤモヤしていた…
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