太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
そして、私が『ひよりん』と呼んだ彼女は、松島 陽依(まつしま ひより)。
私の4歳下の24歳。
セミロングの髪をお団子にまとめ、前髪は重めのパッツン。
色白の肌にくりっとした瞳、ピーチ色のアイシャドウとチークを纏う彼女はふわりとした雰囲気を醸し出している。
内輪で話す時の語尾を伸ばす言葉遣いはイマドキの若いお嬢さんだけど、仕事中は敬語もしっかり使いこなし、真面目に取り組むが優しさも忘れないという、一緒に仕事をするのが楽しく、また頼りになる後輩なの。
フロントの制服であるダークグリーンのタイトなシルエットの膝丈ワンピースの上に同色のジャケットを羽織る。
ワンピースはスクエアネックで胸元が開きにくく清楚に見える仕様で、私はこの制服をとても気に入っている。
鏡で全身をチェック。
落ち着いたゴールドカラーのネームプレートも曲がっていないか確認。
最後に髪の毛が乱れていないか合せ鏡で後頭部を見る。
「ヨシ、今日もOK」
ぱっちりとしたアーモンドアイの二重瞼に落ち着いたブラウン×ベージュ系カラーのアイシャドウをやさしく乗せ、唇は赤みがやや強めのベージュのリップ。
背中の中ほどまであるダークブラウンの髪をキッチリと夜会巻きにし、前髪は額を出すように左に流している。
「麻依先輩はいつもかっこいいです!もっとバッチリメイクしてスカーフ巻いたらまさにCAさんですもん」
ほぉ…とひよりんが甘いため息を漏らしながら言う。
大学生の頃、CAに憧れていた私としては身に余るお言葉。
「いつもそう言ってくれてありがとう。ひよりんはいつもきちんと可愛らしくていいね」
「えへへ、ありがとうございますぅ」
お互いにただ褒めあっているだけのようだが、実はこれもすごく大事。
モチベーションが全然違う。
これは、彼女と働く様になって、彼女が褒めてくれて初めて気付いたことだ。
年下で後輩とはいえ、教えられることはたくさんある。
それが楽しい。
支度を終えたひよりんがロッカーを閉めながら言う。
「今日なんですよね、新しい支配人が来るの」
「そうだね、中沢支配人はもう何度も会ってるみたいだけど、私達は朝礼で初対面だよね」
私もロッカーを閉めながら返す。
「どんな人ですかねぇ…厳しい人じゃないといいけどぉ」
そういえば…
と、同期が言っていた事を思い出す。
「確か…年齢は私の1学年下で、見た目は背の高い王子様っぽいイケメンだって」
「え、え、どこ情報ですか!?」
「私の同期の福田くん。彼、1社(第一支社)で施行担当してるでしょ?その新しい支配人て、最初は福田くんが施行担当の仕事を教えてたんだって。そのあと1社の支配人の元で研修してたみたいでね。確か、葬祭ディレクター1級も最短でパスしてて、頭もいいし丁寧だしセンスもあるし、施行したお客様からの評判もいいんだって」
「なにそれ、すごい人ですね!」
「うん、なんか一人でうまくこなせちゃって、サブで入ったスタッフもやることがなかったとかって。ただ福田くんも仕事以外ではあまり話さないし、他の人とも個人的に仲良くしてるのも見たことがないとかで、性格とかプライベートは謎なんだって。あと…」
――アイツは女をとっかえひっかえしてるって噂。…でもよ、仕事の話してると普通なんだけど、なーんかそれ以上は人を受け入れない感じがするんだよな。深い仲間になろうとしないっつーか。言ってみりゃ仕事のできるロボットみたいな感じだから、その噂は俺としては微妙だけどよ。まぁ見た目も仕事も出来すぎてるから俺はあんま好きじゃねぇけどよ――
という福田くんの話は飲み込んだ。
(最後のはただのやっかみだし)
これから同僚となる人の、真偽が定かでない噂話やマイナスイメージを刷り込むのは良くないもんね。
私の言い淀んだ「あと…」を気に停めず、ひよりんが鼻息荒く言う。
「え、何ですか、それって謎に包まれた孤高の王子様ってことですか!?」
私にはないその発想に思わず笑う。
「アハハ、そっか、そういう見方があったね」
「麻依先輩は福田さんから聞いてどう思ったんですかぁ?」
「うーん…そのままの意味でしか取らなかったけど」
「でもイケメンさんなんですよね?何かこう、期待しませんかぁ?」
「期待?うーん…あまり…。ひよりんは期待してるの?」
「私は好きな人がいますからそういう意味の期待はしてませんよ、うふふ。ただ麻依先輩の気を引くような、イケメンさんでイイ男の人だったらいいな、って思ったんですぅ。麻依先輩は美人さんのイイ女なんですよぉ?…いつも麻依先輩、言ってますけど、このまま枯れさせるなんて絶対勿体ないですって!」
ひよりんが人差し指を立てて鼻息荒く言う。
「そうかなぁ」なんて笑いながら腕時計を見て、早めに二人で更衣室を出た。
ん…もう既に枯れちゃってるっぽいけどね…
28歳。
独身。
彼氏は4年いない。
…恋愛に興味がないわけではない。
ただ…心の奥に引っ掛かっている刺のせいで、好きになるどころか気になる人すらできないでいる。
このまま独身を謳歌するのも悪くないんじゃない?なんて、いつの間にか自分に言い聞かせる様になっていた。
私の4歳下の24歳。
セミロングの髪をお団子にまとめ、前髪は重めのパッツン。
色白の肌にくりっとした瞳、ピーチ色のアイシャドウとチークを纏う彼女はふわりとした雰囲気を醸し出している。
内輪で話す時の語尾を伸ばす言葉遣いはイマドキの若いお嬢さんだけど、仕事中は敬語もしっかり使いこなし、真面目に取り組むが優しさも忘れないという、一緒に仕事をするのが楽しく、また頼りになる後輩なの。
フロントの制服であるダークグリーンのタイトなシルエットの膝丈ワンピースの上に同色のジャケットを羽織る。
ワンピースはスクエアネックで胸元が開きにくく清楚に見える仕様で、私はこの制服をとても気に入っている。
鏡で全身をチェック。
落ち着いたゴールドカラーのネームプレートも曲がっていないか確認。
最後に髪の毛が乱れていないか合せ鏡で後頭部を見る。
「ヨシ、今日もOK」
ぱっちりとしたアーモンドアイの二重瞼に落ち着いたブラウン×ベージュ系カラーのアイシャドウをやさしく乗せ、唇は赤みがやや強めのベージュのリップ。
背中の中ほどまであるダークブラウンの髪をキッチリと夜会巻きにし、前髪は額を出すように左に流している。
「麻依先輩はいつもかっこいいです!もっとバッチリメイクしてスカーフ巻いたらまさにCAさんですもん」
ほぉ…とひよりんが甘いため息を漏らしながら言う。
大学生の頃、CAに憧れていた私としては身に余るお言葉。
「いつもそう言ってくれてありがとう。ひよりんはいつもきちんと可愛らしくていいね」
「えへへ、ありがとうございますぅ」
お互いにただ褒めあっているだけのようだが、実はこれもすごく大事。
モチベーションが全然違う。
これは、彼女と働く様になって、彼女が褒めてくれて初めて気付いたことだ。
年下で後輩とはいえ、教えられることはたくさんある。
それが楽しい。
支度を終えたひよりんがロッカーを閉めながら言う。
「今日なんですよね、新しい支配人が来るの」
「そうだね、中沢支配人はもう何度も会ってるみたいだけど、私達は朝礼で初対面だよね」
私もロッカーを閉めながら返す。
「どんな人ですかねぇ…厳しい人じゃないといいけどぉ」
そういえば…
と、同期が言っていた事を思い出す。
「確か…年齢は私の1学年下で、見た目は背の高い王子様っぽいイケメンだって」
「え、え、どこ情報ですか!?」
「私の同期の福田くん。彼、1社(第一支社)で施行担当してるでしょ?その新しい支配人て、最初は福田くんが施行担当の仕事を教えてたんだって。そのあと1社の支配人の元で研修してたみたいでね。確か、葬祭ディレクター1級も最短でパスしてて、頭もいいし丁寧だしセンスもあるし、施行したお客様からの評判もいいんだって」
「なにそれ、すごい人ですね!」
「うん、なんか一人でうまくこなせちゃって、サブで入ったスタッフもやることがなかったとかって。ただ福田くんも仕事以外ではあまり話さないし、他の人とも個人的に仲良くしてるのも見たことがないとかで、性格とかプライベートは謎なんだって。あと…」
――アイツは女をとっかえひっかえしてるって噂。…でもよ、仕事の話してると普通なんだけど、なーんかそれ以上は人を受け入れない感じがするんだよな。深い仲間になろうとしないっつーか。言ってみりゃ仕事のできるロボットみたいな感じだから、その噂は俺としては微妙だけどよ。まぁ見た目も仕事も出来すぎてるから俺はあんま好きじゃねぇけどよ――
という福田くんの話は飲み込んだ。
(最後のはただのやっかみだし)
これから同僚となる人の、真偽が定かでない噂話やマイナスイメージを刷り込むのは良くないもんね。
私の言い淀んだ「あと…」を気に停めず、ひよりんが鼻息荒く言う。
「え、何ですか、それって謎に包まれた孤高の王子様ってことですか!?」
私にはないその発想に思わず笑う。
「アハハ、そっか、そういう見方があったね」
「麻依先輩は福田さんから聞いてどう思ったんですかぁ?」
「うーん…そのままの意味でしか取らなかったけど」
「でもイケメンさんなんですよね?何かこう、期待しませんかぁ?」
「期待?うーん…あまり…。ひよりんは期待してるの?」
「私は好きな人がいますからそういう意味の期待はしてませんよ、うふふ。ただ麻依先輩の気を引くような、イケメンさんでイイ男の人だったらいいな、って思ったんですぅ。麻依先輩は美人さんのイイ女なんですよぉ?…いつも麻依先輩、言ってますけど、このまま枯れさせるなんて絶対勿体ないですって!」
ひよりんが人差し指を立てて鼻息荒く言う。
「そうかなぁ」なんて笑いながら腕時計を見て、早めに二人で更衣室を出た。
ん…もう既に枯れちゃってるっぽいけどね…
28歳。
独身。
彼氏は4年いない。
…恋愛に興味がないわけではない。
ただ…心の奥に引っ掛かっている刺のせいで、好きになるどころか気になる人すらできないでいる。
このまま独身を謳歌するのも悪くないんじゃない?なんて、いつの間にか自分に言い聞かせる様になっていた。