太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
「あっ、羽倉さんッ!」

施行のない日は館内チェックのため細かく見て回るのだが、とある土曜日、1階ロビーにいる時に私の名を呼ぶ男性の声がした。
そして、その声の人にぞろぞろと続く男女。

…もしや…

「先月お世話になりましたライト建設の者です」

…やはり…


あ、ご挨拶はしとかないとね。

「こちらこそ、その節は大変お世話になりました。すみません、こちらでお掛けになってお待ち頂けますか」

「はいッ、ありがとうございます!」

彼の返事に一礼してその場を後にする。



たっ大変だあぁ!

急いで支配人、上原さん、高見くん、ひよりんに例の御一行様のご来店を伝え、フロント奥に集合する。

まずは上原さんが代表で話を聞きに行ってくれることになり、残る私達4人はフロント内で待機だ。

…御一行様は総勢8名の模様。
向こうから見られない角度で、フロントの陰からこっそりとロビーを伺う。


まず上原さんが口火を切った。

「ライト建設の社員の皆さまですね。社葬の際は大変お世話になりました。…それで今日はどの様なご用件で…」

「実は私達、もう一度こちらのスタッフの方にお会いしたくて」
一人の男性が口を開く。

「…スタッフというのは誰のことで」

「佐伯さん!」「羽倉さんです」「「松島さん!」」「佐伯さんです」「高見さんが」「羽倉さんに!」「上原さんです」

8名がほぼ同時に口々に言う。

「…私を含め5名の者でしょうか」

「「「ハイ!」」」

概要を知っていたとはいえ上原さん、聖徳太子か。

「…そうですか。それで、会いたいというのはどういった意味合いで…」

「お近づきになりたいんです!」

その一人の女性の発言を皮切りに「お食事に!」「一緒に飲みに!」「お付き合いしたくて!」等の言葉が舞う。


一通り聞いて、ふ…と息を吐いた上原さん。

「皆さんのお考えはわかりました。…少しお時間を頂いてもいいですか?他のメンバーを呼びますので」

「待ってます!」
「よろしくお願いします!」

「…でもあまり期待しないで下さいね」

…と、やや苦い笑顔で言い残し、上原さんがフロントへ戻ってきた。


「…聞いてた?よね」

「はい、富山さんの言ってた通りですね」

「どうしますかね…」

「これはもう〝作戦〞で行きましょう」

「修さん、作戦てなんスか?」

「簡単です。それはね…」


…ヒソヒソヒソヒソ…


上原さんが提案した、その名も
〝上原作戦〞(そのまんまやんけ)
いざ決行!

5人で御一行様の待つロビーに向かうと、私達を見た皆さんが立ち上がり、歓声と黄色い声が飛び交った。

…私らはパンダか何かか。


「メンバーを呼びましたが誰に…」

上原さんが言い終わる前に、8名は私達5人の前にそれぞれサッと移動した。

…練習でもしてきました?


まず最初に上原さんが目の前に来た女性に声をかけた。

「すみませんが、私は既婚者ですのでこういったのはお断りしております」
と、左手の指環をさらりと見せた。

「えっ!…そうでしたか…それは気付かなくて…すみませんでした」

「いえ」

次に高見くんが同様に声をかけるのだけど、ここからが上原作戦の始まり始まり~

「あのー、俺のとこに来てもらっといて申し訳ないんスけど、俺、彼女いるんスよね」

「あっ、そうなんですか…でも…お友達としてお茶だけでも…」

「あー…ねぇ陽依?彼女としては、それはイヤでしょ?」
と、隣に立ったひよりんに優しい笑みで声をかける。

「「エッ!?」」
ひよりんの前にいた男性2人が同時に驚きの声をあげてひよりんを見る。

「あっ、はい…困ります…」
「ってことで、そちらのお二人もスンマセン」

「そうですか…」「はい…」
ひよりんの前の男性が呆気にとられてる。


そして最後に支配人が目の前の2人の女性に言う。
「すみません、実は僕も彼女がいまして…」
と、チラリと私を見るから、私も支配人を見た。

「「「「 !! 」」」」

…おわかり頂けただろうか。


そして私は「すみません…そういうワケでして…」と目の前の男性に言う。

「…ですよね、お似合いですもん。そちらの高見さんと松島さんも」

がっくりと項垂れていた男性だが、そんな言葉をかけてくれた。

その後は口々に「そうだね」「ほんとにそう、美男美女のカップルで羨ましい」「いやー、皆さん全員高嶺の花だったね」「マイッタマイッタ」などと明るく話してくれたため、特に富山さんに相談することはなさそうだった。


「大勢で押し掛けてすみませんでした」と、どこか清々とした御一行様が帰ったあとは、みんなで「はあぁぁぁ」と長い息を吐いたのは言うまでもなく。


実は、この一件と〝上原作戦〞は私達のそれぞれの恋路を進めるのに一役買っていたと知るのは、もう少し後のお話――

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